2015年5月のレーダー今週のレーダーへ

 汗 No.718

「全国的に気温上昇 本州でも30℃超えの真夏日」と4月27日付ネットニュースが伝えていた。ただ、汗をかくのが下手な日本人が最近増えているのだそうだ。

汗の量は「能動汗腺」(汗腺には汗をかかない「不能汗腺」もある存在理由を今日は訊かないでほしいが)の数で異なり、その数は生後2~3年に育った環境によって決まる。ロシア人なら平均190万個、フィリピン人なら280万個という具合だ。

高温多湿の風土に住む日本人の能動汗腺は本来230万個内外と結構多いのだが、空調完備の生活環境が普及してきた結果、能動汗腺の機能が低下し、汗をかきにくくなってきたという。発汗が減り体温調節の機能が低下すると、自律神経失調症に発展したり、ホルモンバランスが崩れ、免疫力が低下して体調を崩す原因になる。

といって、人前で大汗をかくのも、他人(ひと)様に暑苦しい印象を与えてよろしくない。 1960年にケネディとニクソンが戦った米大統領選挙では、テレビ討論が史上初めて導入された。ケネディは、妹パトリシアの夫(のちに離婚)で俳優のピーター・ローフォードから助言を受けてメーキャップを施し、日焼けし、事前に休養も充分とって、若々しい印象で登場した。一方のニクソンは、直前まで行なっていた演説活動から駆け付けたこともあり、討論の途中、吹き出す汗を何度も拭っていた。その様子がまるで何かに焦っているような印象を視聴者に与えてしまった結果は、言うまでもなかろう。

盆地にある京都は、夏が蒸し暑いことで知られる。それなのに、舞妓さんたちは、白粉(おしろい)を塗った顔に汗ひとつかかず歩いている。実は、帯を一般より高い胸の位置できつく締めた、「芸者の高帯」と呼ばれる独得の締め方に企業秘密がある。生理学者・高木健太郎博士が発見した「半側(はんそく)発汗」現象の応用である。

「半側発汗」は、人体の左右上下のいずれかを圧迫すると、その側の発汗が抑えられるもの。舞妓さんは「高帯」によって、顔に汗をかくのを防いでいるのだ。胸から5~10㎝上を親指で5分ほど押しても、1時間程度なら同様の効果があるそうだ。

そもそも汗をあまりかかないようにするなら、①熱産生(=熱が細胞から放出されること)が少ない炭水化物を食べる ②発汗を抑えるイソフラボンが豊富な大豆食品(納豆や豆腐の味噌汁)を食べる ③辛い物だけでなく甘い物も汗が出やすいから避ける、等々を心掛けるとよいという。暑い日もありそうな黄金週間の豆知識に、いかが。

思考停止 No.719

ニューヨーク市マンハッタンの朝。出勤を急ぐサラリーマンたちは、驚くほど信号を守らない。誰もが堂々と信号を無視して歩く。行儀の良い日本人とは対照的だ。

にもかかわらず東京とマンハッタンの交通事故の発生確率は、なんとマンハッタンのほうがずっと低いのだそうだ。なぜか? アメリカ人は、いま渡っても安全か否かを、信号ではなく自分の眼で確認し、渡っているからだ。

信号が青に変わると、一斉に、無条件に道を渡るのが日本人。ところが時に、信号を無視し車が突っ込んでくることがあるから惨事が起こる。だから道を横断する際は、何より自分の眼で確かめるのが最も安全だと、彼の国の人々は考える。

同様に、新聞・テレビが流す数多の情報をどう取捨選択し何を信じるかは、「信号任せ」でなく「自分自身で判断することが大事」とフリーアナウンサー・長谷川豊氏は著書「テレビの裏側がとにかく分かる『メディアリテラシー』の教科書」に書く。

長谷川氏はかつてフジテレビで朝の情報番組「とくダネ」を担当していたが、2010年にニューヨークに転勤。しかし2012年、突然、会社の経費を不正使用したとして懲罰委員会にかけられ、アナウンサー職を外された。それがきっかけで翌年退社。

「不正などしていない」と長谷川氏。しかし説明の機会を与えらなかった彼は個人ブログに経緯を綴り、本著を書いた。その中で、かつて自身も番組で “やらせ”に関わったこと。1990年に米議会公聴会でイラク兵による非人道的行為を証言しアメリカが湾岸戦争に介入するきっかけになった15歳のクウェート人少女が、実は役者志望の在米クウェート大使の娘だったこと。

2009年に感染死亡率が高いと注目された「新型インフルエンザ」が、その後のWHO調査ではほとんど普通の風邪程度の毒性しかないと判明したにもかかわらず、予定していた特集でそのことは伏せられセンセーショナルに扱われたこと、等々、多くの「ニュースの裏側」を暴露している。

それらの暴露は、しかし自分が退社に追い込まれたことを根に持った長谷川氏の、私怨に因る腹癒せではなさそうなことが、本著を読み進むと分かる。

長谷川氏が言いたいのは、信号に無条件に従うのと同様、マスコミ報道を鵜呑みにすることの危なさであり、私たち日本人はテレビの前であまりに「思考停止」になってはいないかという問い掛け。連休中、地元図書館で見つけた一冊は、思わぬ勉強になった。

警句 No.720

情報セキュリティ会社「デジタルアーツ」の調査によると、10~18歳のスマートフォン所有率は65%。小学校高学年(10~12歳)では39%にとどまるが、中学生で60%、高校生で96%と大きく増え、とくに女子高校生では98%に及ぶそうだ。

また女子高校生では、所有率の高さだけでなく、平均 ―― そう“最長”ではなく“平均”でも 7.0時間に及ぶという1日の使用時間の多さにも驚く。もはや食事中はもちろんトイレや入浴時でさえスマホを手放せなくなっている彼女たちの、「スマホ漬け」生活の実態が目に浮かぶ。

同じ世代を対象に文科省が昨年行なった調査では「寝る直前までスマホなど情報機器に触れている」ことが「よくある」と答えたのは52%、「時々ある」が24%。とくに高校生では「よくある」が6割を超えた。その影響だろう、「よくある」と答えた中学生の78%、高校生の85%が「朝起きるのがつらい」と訴えている。「夜間、スマホなど液晶画面のブルーライトを浴び過ぎると睡眠障害を引き起こす」と国際医療福祉大学の綾木雅彦准教授(眼科)は指摘する。

悪影響は健康面だけではない。信州大学の山沢清人学長は今春の入学式で「スマホやめますか。それとも信大生やめますか」と訓話し、話題になった。 「皆さんは、今日までは(受験生として)正解のある問題を解くことに終始していました。知識の“量”を試されていました。しかし世の中では、正解のない問題を解かねばなりません。誰も考えたことのないことを考えるという、知識の“質”を問われることになります。個性を発揮するとは、何か特別のことをするのではなく、問題・課題に対して常に“自分で考える”ことを習慣づけ、“考えること”から逃げないことです。知識の“質”すなわち探究的に考える能力を育てることが大切となります」

「スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの“見慣れた世界”にいると、脳の取り込み情報は低下してしまいます。(スマホの)スイッチを切って、本を読みましょう。友達と話をしましょう。自分の持つ知識を総動員し、物事を根本から自分で考える姿勢を習慣づけましょう」(抜粋・要約)

キーワードを入力し検索ボタンを押せば、答えがすぐ分かってしまう日常に慣れる怖さは私たち社会人も同じだ。正解のない問題と真正面から向き合い、一生懸命悩もう。

大和言葉 No.721

テレビのグルメ番組では、ナイフを入れたハンバーグの切り口から肉汁がジュワ~と滲み出てきた瞬間、レポーターの10人が10人とも同じ言葉を口にする。「わぁ、ジューシー!」。「オックスフォード現代英英辞典」には「The meat was tender and juicy.(柔らかくて、肉汁たっぷり)」の例文が載るから正しいのだろうが、昭和世代としては「肉料理」に「ジューシー」の表現は、どうにも違和感を否めない。

「近年、文化財の保護ということが重視されているが、吾々の護るべき第一の文化財は、日本語そのものでなければならぬ筈と思う」 ―― 今上天皇の教育係だった小泉信三氏が戦後間もない頃随筆で書いた不安は、不幸にも的中してしまったようだ。

そんな中、最近ちょっと嬉しく思うことがある。高橋こうじ著「日本の大和言葉を美しく話す ― こころが通じる和の表現」(東邦出版刊)が売れているからだ。日本語の良さを見直すこの本は昨年12月発刊され、現在14刷目、24万部。「意外にも30~40代の反響が大きい」(出版元)そうだ。早速図書館ネットで検索すると、名古屋市内全17図書館で「貸出中」。予約待ちも99人と知って諦め、書店へ出向いた。

日本語の単語は、3タイプに分かれる。①中国から輸入され、漢字の音読みで発音される「漢語」 ②中国以外から入り、多くはカタカナ表記される「外来語」 ③それ以外で訓読みされる「大和言葉」である。その中で「大和言葉」は日本の風土の中で生まれてきた言葉だから、「最も日本人の“心に染みる”特性がある」と前書きに書く著者・高橋氏は、本書に380語余の「大和言葉」を載せた。例えば――。

今では年配世代でさえ油断すると口にしてしまう「超××」という言い方。頭に「超」と付けるだけでその言葉の意味の最上級を表現でき、それこそ「超便利」だが、あまりに頻繁に使われるようになった結果、「最近は、聞く人の心に届いている印象がない」と著者。そこで高橋氏は代わりに3つの大和言葉を勧める。1つは、大和言葉特有の柔らかさと穏やかさを持った「このうえなく」。2つ目は、心を打たれ、感動したことをより優雅に言い表す「いたく」。そして、懐かしさや愛情の奥行きがぐっと増すのは「こよなく」だ。たしかに私たちも、「超」登場以前はそんな使い分けをしていた。

「もったいない」が世界に通じるエコ用語として認知され、「接待」を大和言葉の「おもてなし」と表現して成功した日本。日本語の良さを再認識する良い機会ではあろう。

我慢6秒 No.722

人間、年を取ると丸くなる、と言われるが、実際はむしろ、些細なことが気になってイラッとしたり怒りっぽくなったりするのではないかと、自身に照らすと思う。

加齢に伴い理性や自己抑制力が低下するのは、「脳の動脈硬化」という医学的根拠で裏付けられている。「老化や生活習慣が変化し脳の血管が細くなると脳細胞の働きが弱くなり、活動が弱くなったエリアによっては、性格が変わってくることもある」(古賀良彦・杏林大学教授=精神神経)というのだ。

とりわけ感情面を司る脳の前頭前野の外側部が衰えてくると、怒りっぽく、キレやすくなる。「幼稚園児から80歳までの脳を調べていくと、怒りを抑制する機能は30歳ごろをピークとして以後は落ち始め、60歳になると6歳児とほとんど変わらなくなる。高齢になるほど先のことが思い描けなくなり、衝動的に目先のことばかりに思考が行くため」(篠原菊紀・諏訪東京理科大学教授=脳科学)だそうだ。

東日本大震災の直後、就任したばかりの復興対策担当大臣が被災地を訪れ、多忙な知事に応接室でたった数分待たされただけなのに「客を待たせるな!」とキレた態度が顰蹙を買い、数日で更迭されたニュースを私たちは忘れない。また、福島原発の対応で混乱のピークにあった東電本社に早朝自ら乗り込み、社員たちを怒鳴り散らしたという当時の菅直人首相の「イラ菅」ぶりも、人心が離れる要因になった。

「結局、人は怒れば怒るほど、人間関係を失う」と日本アンガーマネージメント協会代表理事の安藤俊介氏(自著「『怒り』のマネジメント術」)。

「アンガー・マネージメント」は1970年代にアメリカから広まった、怒りの感情を上手にコントロールするトレーニング法である。安藤氏によると「怒り」は「アレルギー」と似ている。だから「怒り」をマネージメントするにはアレルギー治療と同様、自身に生じた「怒り」という感情をとりあえず即効で抑える「対処療法」と、「怒りやすい性格」を根本的に変えてゆく「体質改善」の2つの方法があるという。

多くに触れる紙幅はないが、「対処療法」の1つは、イラッと来たら、とにかく6秒間我慢することだそうだ。6秒あれば、怒りを、とりあえずやり過ごせるものらしい。

「地球上に60億人もいる他人を変えるより、自分一人を変えるほうが圧倒的に速く、エネルギーもかからない」と安藤氏。なるほど。6秒ルールを、試してみてはいかがか。