コラム


 地球ゴマ  No.551
 昔懐かしいオモチャ「地球ゴマ」が、現在も作り続けられていることを地元ミニコミ誌の記事で知り、驚いたし、嬉しかった。

 ジャイロスコープの原理を応用して作られた「地球ゴマ」。お父さん世代の誰もが知っているこのオモチャが、しかしアイデアも製造もすべて純国産であることは案外知られていないようだ。名古屋の時計メーカーの工場長だった加藤朝次郎さんが、「人に使われるのでなく、自分で商売をしたい」と独立を決意。時計の歯車にヒントを得て「地球ゴマ」を考案、大正10年(1921年)に「タイガー商会」を興し、作り始めた。

 昭和に入ってから対米輸出も開始したが、国内販売はむしろ伸び悩んでいた。他のオモチャと違って、店頭に黙って置いてあるだけでは遊び方が分かりにくいうえ、価格が、子供が小遣いで買うには高かったからだ。オモチャとはいえ職人が0.2~0.3mmという高精度を保ちながら手作りする精密機械。価格を安くはできなかった。

 そこで思いついたのが、繁華街の露店、縁日の夜店などでの実演販売だった。遊び方を見せることで「地球ゴマ」の不思議な面白さが知られるようになり、昭和30年代にテレビCMを始めたことも手伝い一気に火がついた。諸兄が目にしたのはこの頃だったのではあるまいか。最盛期には20数人の職人が年間30万個を作っていた。

 しかし、その人気が仇にもなった。「宇宙ゴマ」「サーカスゴマ」「太陽ゴマ」「衛星ゴマ」等々の商品名で、安いけれど粗悪な類似品が一気に大量に出回ったからだ。これら類似品は精度が悪いためコマの回りが悪く、安定しない。中には実演するのは「地球ゴマ」で、売るのは模造品という悪質な店もあった。当時そうとは知らずに買って失望し、飽きて手にしなくなった諸兄もいるのではないか――と言うより筆者がそうだった。

 そんなブームが去ってからすでに30~40年。現在は月産3000個程度に落ち込んだものの「地球ゴマ」が市場で存在し続けられている理由は、職人が昔と変わらず一点一点の品質を維持しながら作り続けている物作りの姿勢の実直さ、確かさにあるのだろう。

 その「地球ゴマ」を、実は買い求めて半世紀ぶりに手にした。コマ軸にタコ糸を巻き、引っ張る。「ブーン」と低い音を立てて回るコマを見ながらついニヤリとした満足感は、単なるノスタルジアだけではない気がする。正月には顔を出すであろう子供や孫の前で回して見せた時の、彼らの反応が楽しみだ。まだ間に合う。諸兄も、いかがか。

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