コラム


 世界観  No.550
 12月は交通事故が多い。師走の忙しさに加え、目の機能が明るさの変化に弱い人間にとって、日没後急に暗くなる時刻が帰宅時と重なるこの季節は危険なのだ。

 「車にも 乗せようマナーと 思いやり」は 来年の交通安全標語だが、交通安全標語と言えば、「せまい日本 そんなに急いで どこへ行く」という誰もが知る“名作”がある。ところが、この標語が日本人に、ある「誤解」を定着させる大きな原因になったとする説がある。つまり、「日本はそんなに狭い国なのか?」という話だ。なぜなら――。

 EU加盟27カ国中に、日本より面積が広い国がいくつあるかご存知だろうか? フランス…スペイン…スウェーデン……以上の3カ国だけだ。日本という国は、実は日本人が思っているほど狭くはない。欧州諸国の中では日本はむしろ「大きな国」であって、近隣でも韓国は北海道より少し広い程度だし、台湾は九州より小さいのだ。

 にもかかわらず、わが国土はずいぶん狭いと日本人を錯覚させている原因の1つが、普段目にする「メルカトル図法」で描かれた「世界地図」にある。メルカトル図法による地図は、丸い地球を円筒に投影した姿を平面に展開する。この図法で描かれた世界地図は、配置は見やすいものの、赤道を基準にして上(北緯)もしくは下(南緯)へ行くほど、距離が実際より長く描かれるという大きな欠点を持っている。たとえば緯度60度の緯線の長さは赤道の半分なのに、この図法では2倍に拡大されて描かれ、かつ経線も2倍に拡大されるため、面積は4倍に描かれてしまう。その結果、私たちがよく見ている世界地図上では、グリーンランドの面積は実際より17倍も広くなっているのだ。

 これに対し、地図中心点からの距離・方位を正しく比例して描くのが「正距方位図法」。国連旗にデザインされた、北極上空から地球を見た世界地図がそれだ。見慣れているのとは違う「世界観」に少々戸惑うが、その正距方位図法を使い、ただし中心点を富山県沖に置いて描かれた「環日本海諸国図」というユニークな地図がある。富山県が、歴史的に交流が深い極東ロシアや韓国、中国などとの地理関係を理解しやすくするため、平成6年に独自製作した。県刊行物センターで販売されているが、「固定観念が変わる」と人気で、販売開始以来2万7000枚近く売れているロングセラー商品だ。

 TPP問題でいま「環太平洋」が注目されている。しかし同時に日本は、「環日本海」という視点=世界観も決して忘れてはなるまいと、この地図を見ていると思えてくる。

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