コラム


 機が熟すのを  No.532
 「一粒で2度美味しい」は昔懐かしい某チョコレートのキャッチフレーズだが、1本のニュースで2度驚いたのは、日経新聞が先週4日朝に報じた「日立・三菱重工 統合へ」のスクープではなかったろうか。見出しには「13年春に新会社」「きょう発表」と具体的なスケジュール。記事も「原子力などの発電プラントから鉄道システム、産業機械、IT(情報技術)までを網羅」し、売上高が「単純合計で12兆円を上回る」「世界最大規模の総合インフラ企業が誕生する」と綴る。あわてて点けたテレビでは一方の当事者である日立の中西宏明社長が、取り囲む報道陣に「(統合への協議について)夕方発表する」と答えている様子を観れば、誰もが報道を「事実」と受け取って当然だ。

 ところが数時間後、両社の広報がほとんど同時に「そのような事実はない」と否定。三菱重工に至っては夕刻に改めて「(誤った報道は)極めて遺憾。断固抗議する」とのコメントまで発表する不可解な展開に、第三者は目を白黒させるばかりだ。

 その後に多くのマスコミが分析しているように、今回の話が初手からつまずいた原因は、「統合」の範囲が部分的な「事業統合」に限られるのか、それとも最終的には「経営統合」まで視野に入れるのかについて、両者間の議論がまだ充分尽くされていない段階だったにもかかわらず、なぜか話が外部に漏れてしまった、もしくは、誰かによって意図的に「漏らされてしまった」ことにあったように思われる。

 とくに三菱重工側が強く反発した理由は、「統合」がタービンや発電機、原発プラントなど重電部門に限定した「事業統合」なら、日立より優れていると認められている市場での評価や実績を背景に、統合に向けた今後の具体的な話し合いを優位な立場で進めることができるけれども、全面的な「経営統合」となると、売上高が日立の9兆3158億円に対し三菱重工はその3分の1の2兆9037億円にとどまるため、今後の協議の主導権を日立サイドに奪われかねないという強い危機感があったためと思われる。

 企業統合には駆け引きが付きもの。だからこそ報道機関といえども慎重に事態の推移を見守らなければならないことは、過去、同様の報道に幾度となく携わってきた経済紙なら、一般紙以上に分かっているはずだ。自身が書くように「日本の製造業が競争力を取り戻す転換点」(4日付)にしたいと本当に思うなら、派手なスクープで注目されることより、機が熟すのを待つ矜持を、日本を代表する経済紙には持っていてほしいと思う。

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