コラム


  梅は咲いたが   No.508
 「小向」と言っても、覚せい剤取締法違反で逮捕状が出ているのに出国先のフィリピンからなかなか帰ってこない、あの困ったお嬢さんの話ではない。ほかにも「道知辺」「玉牡丹」「鈴鹿の関」「夏衣」「幾夜寝覚」「五節の舞」「月宮殿」等々、風情ある品種名をいくつも持つ、いまを盛りに咲く「梅」のことだ。

 梅は中国原産。日本には1500年ほど前、万能の漢方薬「烏梅」の材料として渡来したとされる。以来、主に貴族の多くが薬用・観賞用にと自宅の庭に植えるようになった当時は、春まだ浅い季節に他に先駆けて咲き始めることから「百花の長兄」とか、あるいは、かつて中国・晋の武帝が学問に親しむと花が咲き、勉学を怠ると咲かなくなるという故事に由来して「好文木」とも呼ばれる。水戸藩主・徳川斉昭が偕楽園内に建てた建物に「好文亭」と名付けたのは後者にちなむ。

 「梅は咲いたか 桜はまだかいな~」と元芸妓で歌手・藤本二三吉が大正時代に歌った頃から主役を徐々に桜に奪われてしまったが、かつて日本で「春の花」と言えば「梅」だった。江戸時代の梅花図譜「梅品」に載るのは60品種だが、品種開発が進んだ現在では400種、地方品種を加えると1600種にのぼるという。

 可憐な梅の花もよいが、「三毒(食べ物、血液、水の毒)を断つ」とされる「梅干し」の効用がまた捨てがたい。梅干しを口にすると唾が出る唾液腺は、「老化防止ホルモン」とか「若返りホルモン」と呼ばれる「パロチン」を内分泌する。新陳代謝を活発化し、健康維持に大いに効果があるので、食卓にぜひ一、二粒添えておきたい。

 ところで過日、官邸を訪れた大宰府天満宮のお嬢さんたちから梅の盆栽を贈られた菅首相が、苦笑いしていた。その品種名が「思いのままに」だと告げられたからだ。なるほど、何もかもが思い通りに進んでいない菅さんには、痛烈な皮肉ではあった。

 けれども菅さん、こんな言葉をご存知ですよね。「桜切るバカ、梅切らぬバカ」―― 桜は切り口から腐りやすい木なのであまり切らないほうがよいが、梅は、放置しておくと枝が気ままな方向に伸び過ぎ、枯れたり、花実が付かなくなったり、見栄えも悪くなるので、思い切って剪定したほうがよい、という古くからの教え。だそうなので、ここは思い切って、気になる大枝・小枝をバッサリやるのが正解かもですよ、菅さん。

 「梅一輪 一輪ほどの あたたかさ」(服部嵐雪) ―― 季節は、止まることなく移り行く。 

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