コラム


  埋め切れない違和感   No.495
 ただの野次馬気分でなく、企業における社内倫理や組織維持にも通じる話題と思うから、今回の「尖閣ビデオ流出事件」の成り行きに強い関心を持ってしまう。

 ご承知の通り「映像を動画投稿サイトに流したのは自分」と名乗り出た神戸海上保安部の43歳保安官は、5日間に及ぶ任意聴取の末、逮捕を見送られ、在宅のまま取り調べが続けられることになった。理由は、1、保安官自らが流出を告白しており、証拠隠滅や逃亡の恐れがない 2、問題の映像は、ある期間までは海上保安庁内の多くの部署で、誰もが見ようとすれば見られる状態に置かれ、実際かなりの職員がそれを見ており、映像の実質的な「秘密」度合いはそれほど高くなかった――からだそうだ。

 しかも、映像を公にした動機について本人は、「政治的主張や私利私欲に基づくものではなく、今回の行動は正しかったと信じている」と言い切り、とは言うものの「公務員のルールとしては許されないことだったと反省」し、「関係者に多大な迷惑をかけた」と詫びてもいる。そんな彼の言動は、ある意味では毅然として映る。また他方で、政府が今回、漁船衝突事件で中国に見せた「弱腰姿勢」への不満も重なったのだろう、世論調査では「映像流出を支持する」65%、「保安官を起訴すべきではない」64%などという声が主流を占めている(フジテレビ電話調査)。

 加えて、今回の事件の一番の問題は、中国漁船船長の公務執行妨害事件の捜査資料用に作成されたビデオを、今後の研修に役立てようと考えた海上保安大学校が、提供データを、誤って、外部アクセス可能な共有ホルダに保存、かつそのミスに数日間気付かなかったという、組織内ネットワークにおける情報管理の瑕疵、認識の甘さにあった。

 だから、今回の保安官の行動は情状酌量されるべきだとする意見を、理解できないわけではない。しかし、である。彼は問題の映像を、自宅パソコンからではなく、わざわざネットカフェまで出かけて流した。その際データを持ち運んだUSBメモリを、念入りに折って破壊したうえ、捨てた。自宅パソコンは、日常的に使用するにはデータやソフトが極端に少ないほど消去されていた――等々が事実として報道されている。そうした行動と、「誰かがやらなければと思って…」という「義憤」を口にした彼の言葉の間に、どうしても埋め切れない違和感を覚えるのは筆者だけだろうか。

 もし自分の組織内に「43歳保安官」が居たら?――民間企業なら、答えは簡単だろう。

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