コラム


  美術展好き   No.493
 名古屋に今春オープンした「ヤマザキ マザック美術館」。特別展が開かれていたわけでもない平日午前に、存外多くの人々が名画を鑑賞していることを知り、驚いた。

 日本人は世界一の「美術展好き」だそうだ。2009年に世界中で開催された美術展の「1日当たり入場者数ランキング」は、1位「国宝 阿修羅展」(東京国立博物館、15960人)、2位「正倉院展」(奈良国立博物館、14965人)、3位「皇室の名宝」(東京国立博物館、9473人)、4位「ルーヴル美術館展」(国立西洋美術館、9267人)と日本が上位を独占。10位の「THE ハプスブルグ」(国立真美術館、5609人)も含めると、ベスト10中の半数を日本の美術展が占めた(英国の美術専門誌「アート・ニューズペーパー」調べ)。

 ただし、「1日当たり」ではなく「年間入場者数」となると、話は別だ。1位ルーヴル美術館(830万人、仏)、ポンピドゥー・センター(550万人、同)などに比べ、日本の美術館は国立新美術館247万人(13位)、国立博物館213万人(15位)と開きが大きい(雑誌「COURRiER」2007年調べ)。著名特別展には大挙して押しかけるものの、美術鑑賞が日常的な娯楽=「文化」として根付いているとは言えない日本の悲しい実態を映す。

 それに、美術館へ足を運ぶたびに不満に思うことがある。入場料が結構高いことだ。何十億円を投資して製作する映画なら、それを回収するための1800円は仕方なかろうと納得する。けれども、絵画は制作費はタダ。主な経費は海外から運ぶ運送料と美術館に払う場所代ぐらい。それなのに……と首を傾げたくなるが、実は美術展の開催コストの多くを、万一の破損事故や盗難などに備えて掛けられる保険料が占める。

 作品の評価額に応じて決まる保険料が、国際テロの多発で大幅に引き上げられた。このため名画が一堂に集まる特別展では、保険料は巨額に上る。そこで入場料もそれに見合う高さに設定される。それだけでなく開催場所も、多数の入場者が見込める大都市の美術館に限られるなど、文化における「地域格差」を生む一因になっている。

 文化庁では、海外から借りた美術品を破損などした場合、損害を国費で保障する「美術品国家補償制度」を、来年4月から施行する方向で準備を進めている。同様の制度がない国は、G8では日本とロシアだけと知り、恥ずかしさで顔が赤らむ。

 特別会計「事業仕分け」で、再び役所の「ムダ金使い」を思い知らされた。結局、利権を生まない分野には金が使われないということなのか。この国の、程度の低さに落胆する。

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