コラム


  万事塞翁が馬   No.490
 アルゼンチン戦(8日)に勝ち、宿敵・韓国戦(12日)は引き分けだったが、サッカー日本代表新チームはまずまずのスタートを切ったと喜んでよかろう。ザッケローニ新監督というより、チームの基礎力をここまで高めた岡田武史前監督の功績。その「岡ちゃん」は、色紙を書く際は必ず「人間万事塞翁が馬」の座右の銘を添えるそうだ。

 中国の前漢時代、北方に住む気性の荒い異民族は蔑称「胡」と呼ばれ、恐れられていた。その「胡」との国境に近い塞に住んでいた一人の老人(翁)の家から、ある日、一頭の駿馬が逃げ出した。馬は「胡」の国に逃げ込み、連れ戻すのは難しかったため、近所に住む人が翁を慰めに出向いた。ところが、翁は意外にも平然としていたばかりか、「なぜこのことが幸運に転じないと言えようか」と口にする。すると――。

 半年後。逃げ出した駿馬が、なんと別の優駿を引き連れて戻ってきたのだ。「これはめでたい」と再び隣人たちが、今度はお祝いを言いに翁の家へ出向くと、翁は「どうしてこれが災いに転じないと言えようか」と浮かない表情を見せる。

 翁の不安は的中した。優駿に乗って遊んでいた息子が落馬し、足に一生の障害を負ってしまったのだ。隣人たちは不憫に思ったが、翁は、最初に名馬が逃げ出した時と同様、平然としている。すると1年後、領土をめぐって隣国との戦争が勃発。村の若者がすべて招集され、10人中8、9人が戦死したにもかかわらず、足の障害で招集を免れた翁の息子だけは助かり、親子ともども余生を無事に過ごしたという。

 人の幸不幸は表裏一体。幸運に浮かれていると足元を掬われることもあれば、不幸な出来事も気持ちの持ち方ひとつで幸運を呼び込むこともある。安易に一喜一憂するなかれ――と故事は教える。

 先のワールドカップ直前の数試合に惨敗、手厳しく批判された岡田監督が、大会後に語っていた。「悪い時は必ずある。けれどそれは次の成長に必要なもの。諦めずに立ち向かっていく勇気をこのチームは示してくれた。やはり、人間万事塞翁が馬だ」と。

 景気はいぜん低空飛行。にもかかわらず、まるで自民党旧政権下での「いつか来た道」を歩んでいるような政治への不満やもどかしさが、菅内閣の支持率低下に表れている。

 でも。不平不満を口にするだけの他力本願では、状況が何も変わらないも現実。不運を将来の糧にする心の落ち着きと視野の広さを、私たちも忘れないでいたい。 

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