コラム


 「幸福量」  No.436
 「いま幸せですか?」いきなりこう聞かれたら、みなさんは何と答えるだろうか。同じ質問をブータンの人々にぶつけると、9割が「幸せです」と答えるという。

 「GNH」という指標をご存知だろうか。「Gross National Happiness」、日本語に直すと「国民総幸福量」となる。耳慣れないが、最近注目されている指標だ。提唱したのはブータンの第4代国王、ジグミ・シンゲ・ワンチュク。先進国の経験やモデルを研究し、その結果、「経済発展は南北の対立や貧困問題、環境破壊、文化の喪失につながり、必ずしも幸せになるとは限らない」という結論に達したブータンは、金銭的・物質的豊かさを目指すのではなく、精神的な豊かさ、つまり幸福を目指すべきだという考えに至り、「国民の幸福度をいかに上げるか」を国の政策目標の柱に据えている。

 ブータンでは幸福度を判断する項目として、1.基本的な生活 2.文化の多様性 3.精神衛生 4.健康 5.教育 6.時間の使い方 7.環境 8.地域社会の活力 9.良い統治を挙げている。では、これらの項目を日本に当てはめたらどうなるのか――。「GNHではかる日本の豊かさ」というテーマで住友信託銀行が検証している。

 各項目を90年から07年にかけての数値の変化でみると、たとえば基本的な生活では、犯罪発生率が1794件→2106件(人口10万人あたり)と約1.2倍、生活保護者比率が8.2人→12.1人(同1000人あたり)と約1.5倍増え、精神衛生では、悩みや不安を感じている人の比率が51.0%→70.8%(人口10万人あたり)に上昇したうえ、自殺率も16.4人→24.4人(同)と約1.5倍に増えた。一方で、平均寿命は3.7歳伸び、大学進学率は約2倍上昇、大気と水質の汚染が改善されたことなどから、結果、日本のGNHは90年を100とすると07年は109.0となった。この間1人あたりGDPは2割増加した。にもかかわらず、国民の幸福度はわずか1割増し。しかも「基本的な生活」「精神衛生」といった日々の暮らしに直結した項目で数値が悪化している点は見過ごせない。

 そして09年。失業率は過去最悪となり、生活保護受給世帯は初めて120万世帯を突破し過去最高を更新、自殺者は7月までで1万9859人に上り、統計開始以降最悪だった03年(3万4427人)に迫る勢いだ。いまの日本で「幸せです」と即答できる人が果たして何人いるだろうか。幸福の概念は主観的であり、一律の尺度で測れるものではないけれど、国民それぞれの「幸福量」が増える施策を、鳩山「友愛」政権には強く強く望む。

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