コラム


 溢れる「○○力」  No.435
 精神力・求心力・包容力・説得力・持久力・記憶力・忍耐力・瞬発力・実行力・集中力――「力」という字が付く昔の言葉は、もちろん読んだだけで意味が分かった。

 それに比べて最近の「力」が付く言葉は、一体どうだ。仕事力・大人力・女子力・幸福力・夢力・美人力・共感力・文化力・掃除力・愛され力・曖昧力……等々、分かったようで分からない「○○力」が巷に溢れている。そういえば先の衆院選で自民党が使った選挙ポスターも、キャッチコピーは「日本を守る、責任力」。民主党の「政権交代」に比べた訴求力の中途半端さも、もしかすると敗因の1つになったのだろうか。

 「○○力」という表現が近頃流行る背景は、「将来への不安が高まる中、普遍的に通用する“力”強さを求める社会的心理状態の表れだ」とか、「“力”を付けると言葉としての収まりがよいため一瞬分かったような気になり、結果や効果をすぐ求める風潮に合っているため」等々、これまた分かりにくい解析を評論家諸氏は口にする。

 いずれにせよ「○○力」流行の口火を切ったのが1998年発売の赤瀬川原平著「老人力」だったことは間違いない。「人間は、老いて衰えるのではなく、物事を上手に忘れる忘却力、老人力が身に付いてくると考えるべきだ」とする赤瀬川氏の逆転の発想が人々に受け入れられ、その年「流行語大賞」のベストテンに入った。

 さらに2007年に発刊されてベストセラーになった渡辺淳一のエッセイ「鈍感力」が、「○○力」の流行を後押しした。「叱られても皮肉られても何とも感じない、良い意味での鈍さを持ち、物事に一途に取り組む人が残っていく。人間が最後に成功するためには精神の鈍さ、愚直一念の才能が必要だ」という渡辺氏の訴えに同感だ。

 企業経営に求められる大事な「○○力」は「現場力」、そして「社員力」だろう。企業に成果をもたらすのは営業現場であり製造現場。トップは常に自ら営業・製造の現場に足を向け、現場で働く社員の勤労意欲と士気、スキルアップなど「社員力」の向上に意を用いなければなるまい。流行としての「○○力」にはそろそろ食傷気味だが、「現場力」「社員力」の尊重と強化は、企業経営における不易不変のテーマだ。

 余談だが防臭剤メーカー「エステー」が2000年に発売しヒット商品になった「消臭力」は、当時活躍していたプロレスラー・長州力と同年に優勝した大相撲・貴闘力にちなみ、社長自らが命名したそうだ。トップのそうした生活者感覚もまた「現場力」だと思う。

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