コラム


 窮しても・・・  No.414
 「貧」と「貪」。共通する「貝」の字は、古代中国で貝が貨幣として使われていたことに由来し、金や財産を表す。「貧」の「分」は刀で二つを分けることを意味し、お金を分ければ少なくなるので「貧しい」となり、「貪」の「今」は蓋や栓の象形文字で、財産を覆い隠すことから「貪る」という意味になった。字面は似ていても意味はまったく違う両者だが、「貧」と「貪」の距離は案外、一跨ぎかもしれない。

 三菱UFJ証券のシステム部長代理の男性が、5万人分の顧客情報を名簿業者に売却したとして懲戒解雇処分になった。社内の情報データベースの全顧客情報にアクセスが可能な立場を悪用して、抜き出した顧客情報をオペレーターに指示してCDに記録させ、自宅に持ち帰っていたという。動機は「消費者金融への借金の返済」らしい。呆れて、開いた口が塞がらない。わずか33万円の報酬で人生を棒に振った大ばか者である。

 「貧すれば鈍する」――貧しいと心まで卑しくなることを言う。2月に民事再生法の適用を申請した京都の婦人服製造販売会社、もくもくの武甕芳次前社長が先日、虚偽表示容疑で逮捕されたと知り、この言葉が頭に浮かんだ。武甕前社長は、担当者らと共謀してブラウスやスカートなど約1000点の商品タグを中国表示から日本製に付け替え、台湾に輸出していた。虚偽表示は99年から昨年5月まで続けていたという。

 武甕氏といえば、「SPA」という言葉がまだ存在しなかった時代から製造小売を手掛け、ブランドの確立とターゲットを明確にした経営手法で一時代を築いた人物である。しかし拡大路線が裏目に出て、財務内容が悪化。08年に吸収分割公告が官報に掲載され、即取り消された一連のドタバタ劇から一層信用不安が広まり、その後金融機関や取引先に支援を要請した再建策も、発覚した簿外債務の存在などが響き、結局破綻した。経営状態が悪化していく中で、経営者自身のモラルも次第に失われていったのか ――。

 一方で、「窮すれば通ず」という言葉がある。これは「困ったときでも何とかなる」といった楽観的な意味合いで用いられることもあるが、正確には「窮すればすなわち変ず、変ずればすなわち通ず」(易経)であり、途中に「変ず」というプロセスが存在する。つまり、困難から抜け出すためには、変化を起こす力が必要だということだ。

 深刻な景気の悪化で、多くの企業が窮地に陥っている。これまでの経営手法や商品戦略の変革を迫られる中で経営者には、倫理感と清廉さだけは失ってほしくないと思う。

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