コラム


 大事な「柱」  No.377
  「石麿(いわまろ)に われ物申す 夏痩せに 良しといふ物そ 鰻(むなぎ)取り食(め)せ」(万葉集巻十六)――万葉の歌人・大伴家持は、夏痩せして元気のない知り合いの老人・吉田石麿に「うなぎを食べるのが一番よい」と勧めている。うなぎは1000年も前から、体力が弱まる夏の滋養強壮の食べ物として知られていたわけだ。

 7月24日は「土用の丑」の日。この日とウナギが結びついたのは幕末の頃とされる。学者の平賀源内が、行きつけのうなぎ屋に「夏場はうなぎが売れなくて困っている。知恵を貸してほしい」と頼まれた。丑の日に「う」の付くものを食べると縁起がよいという言い伝えがあったため、店先に「本日、土用の丑の日」の張り紙を出させたところ、客が押し寄せたのがきっかけ、という説がある。真偽は定かではないが。

 いわゆる「記念日商法」のアイディアが大ヒットしたわけだが、現代のうなぎ業界では「産地偽装」などという「悪知恵」を働かせる輩(やから)が出てくるから始末に悪い。大阪の水産物輸入販売会社・魚秀と神戸の同卸・神港魚類が関与したとみられる中国産うなぎの産地偽装は、養殖うなぎの本場「一色」と紛らわしい住所地に架空の会社を作ってラベルに表示したり、別の業者が介在したかのように見せかけて産地の追跡調査をしにくくするなど、手口がこれまで以上に複雑巧妙で、極めて悪質といえよう。

 「中国ギョーザ事件の影響を受けて中国産うなぎも売れ行きが鈍り、大量の在庫を抱えることになったので、やむを得ず」と最初は弁解していたが、偽装はどうやらそれ以前からと分かってきた。「食品偽装」が相次ぎ発覚し、世間の目が厳しくなっているのに、偽装業者には消費者の姿が目に見えていなかったのだろうか。

 能の、三間四方の舞台の角(かど)々に柱があるのをご存知だろう。舞いを鑑賞するには少々邪魔。なのに、昔はあった大相撲の4本柱のようになぜ取り払ってしまわないのか?――能面をつけてみると理由が分かる。面にくり抜かれた小さな目の穴から覗くと視界が狭く、自分がどこに立っているのか、どちらへ進めばよいのかがよく分からない。柱は自分の位置を確かめ、進むべき方向を教える大事な目印になっているからだ。

 能で面をつけるのはほとんどの場合、主役を務めるシテ方。企業経営での主役を経営者とすれば、では「柱」は何なのか? それは、経営者に、自身の位置や進むべき方向を教える「消費者」ではないのか。柱を見ずに舞えば、舞台から転落して当然だ。

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