コラム


 カーナビに敗れて No.193
 過去にどれだけ豊かな経験と実績を持っていようと、どれほど知名度があろうと、それだけで生きてゆける時代では、もうなくなったのだ――名古屋の地図出版会社「アルプス社」の経営破たんは、いまこの時代、技術革新や消費ニーズの変化に機敏に、的確に対応していくことの難しさを、他人事ながらも身近な感覚で、思い知らされるニュースになったのではあるまいか。

 アルプス社の道路地図「アトラス」シリーズといえば、少なくとも中部圏の書店の店頭では、ライバル・昭文社の「マップル」シリーズと競ってシェアを奪い合うロングベストセラー商品だった。双方が特色を打ち出す中で、「アトラス」シリーズは、バス停や地方道名まで詳細に記載されている点が役に立つと、とくに外回りの営業マンの「必携アイテム」として、ずいぶん愛用されてきたはずだ、つい最近までは。

 それが「昨年あたりから、売れ行きが急激に落ち込んでいた。というより、ほとんど売れていなかった」と、取材した書店のいずれもが口を揃えた。「やっぱり、カーナビの浸透で、ニーズそのものを失ったんでしょうね」との見方も異口同音だ。加えて最近はインターネットで無料で地図を見られるサービスも浸透してきた。必要な時に必要な部分だけをプリントアウトすれば事足りるから、かさばる道路地図を、ダッシュボードの中に押し込んでしまっておく必要は、もうなくなってしまったのだ。

 もちろんアルプス社も、そうした時代の変化を看過していたわけではない。出版物としての道路地図から、パソコンによる電子地図ソフトの充実に重点を移し、ハンディGPS受信機とセットにしたり、航空写真と重ね合わせて標高差を立体的に再現するジオラマ機能を持たせたりと、工夫を凝らした新製品開発に取り組んではきた。
 しかし、同社はこれまで中部、近畿、関東圏の道路地図に特化してきたことが裏目に出た。全国版に拡充するデータベースの構築とソフト開発に多額の投資が必要で、その借入れの返済負担から、16/9月期には6億8000万円もの赤字を余儀なくされた。

 昨13日、事業再生のスポンサーとしてヤフーと基本合意を結んだことを明らかにしたアルプス社。昭和11年、清正堂書房として創業し、以来ほぼ70年を自力で歩み続けてきた老舗道路地図業者が、今後の「ナビゲーター」役に、同社を窮地に追い込んだともいえるIT最大手の助けを借りなけばならない事態に立ち至ったのは、皮肉な話だ。

コラムバックナンバー

What's New
トップ
会社概要
営業商品案内
コラム
大型倒産
繊維倒産集計