大きな公園を横切って、通勤している。落ち葉の絨毯が、少しずつ厚みを増してきた。 「垣根の 垣根の曲がり角 焚き火だ 焚き火だ 落ち葉焚き…」と、無意識にハミングしたりする童謡「焚き火」。岩手出身の児童文学作家・巽聖歌が、昭和5、6年から13年間、現在の東京都中野区上高田4丁目に住んでいた際、散歩の途中、3丁目の「鈴木さん」が、よく庭で焚き火をしているのを見かけ、作詞した。歌詞の2番に「山茶花山茶花 咲いている…」とある山茶花は、向かいにあった農家の生垣らしい。 巽の詩に渡辺茂が曲をつけたこの歌を、NHKラジオが幼児番組で初めて放送したのは昭和16年。しかし、すぐ放送中止になった。太平洋戦争が、その年、始まったからだ。「落ち葉も貴重な燃料。しかも焚き火は、敵機の攻撃目標になる」というのが「焚き火禁止」の理由だった。復活し、広く愛唱され始めたのは戦後の24年、再びNHKの歌番組に登場し、教科書にも取り上げられてからだ。 ところが、この童謡「焚き火」が、いま再び教科書から消えている。ばかりでなく、実際、この季節の風物詩でもあった焚き火を、最近見かけなくなった。平成12年「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の施行で、家庭ゴミの自宅焼却が原則禁止になって以来だ。ダイオキシンの発生原因になるというので。 念のため地元自治体に聞いてみた。「う〜ん。法律の除外規定に照らせば、焚き火程度なら本来OKです。でも、ご近所から必ず苦情の通報が来ますから、自粛してもらえませんか」 が、東京都の回答は違った。「構いませんよ。どうぞ。ただ、乾燥させてから燃やしてくださいね」 この鷹揚さは、作家を首長に頂く東京都だからか。 それにしても、なんとまあ風情のない、窮屈な世の中になったことか。焚き火の暖かさ、焚き火で焼くヤキイモのうまさを、子供に伝えられなくなった、だけではない。焚き火をしていると、煙が、どこへ逃げても自分に向かってくるのは、発生した上昇気流のいたずらだよ、といった科学のミニ知識や、「焚き火」の歌詞の「北風ぴいぷう吹いている」の「ぴいぷう」は、たぶん「虎落笛(もがりぶえ)」のことで、「虎落」は竹を荒く組んだ垣根で、冬の風が、竹垣や、最近は電線などを通り抜けるときに出す笛のような音を「虎落笛」と言うんだよ、などと教える機会も、なくなってしまった。 日本の「文化」が、どんどん廃れていく。「虎落笛」が一層、寒々と聞こえる。 |
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