仲間が撮るビデオにはおどけた仕草を見せていた。しかしその顔つきからは、徴兵などで否応なく戦場に狩り出されてきたような若い兵士たちとは違い、文字通り生死を賭した修羅場を、自分の意志と力で生き抜いてきた男の精悍さが、伝わってきた。 イラクで過激派武装勢力に襲撃・拘束された日本人・斉藤昭彦さん。県立高校を中退して自衛隊に。2年後除隊し、フランス外人部隊に身を投じたのが22歳。その後21年間、「プロの戦闘家」としてボスニアをはじめ世界各地の戦地を渡り歩き、昨年12月には英国の武装警備会社、というよりは「民営軍隊」に移って、いま世界で最も危険なイラクで「軍隊の護衛」活動に従事していた――というその経歴。 しかもこの間、パスポートの更新などで日本にも何度か帰国していたにもかかわらず、家族とはほとんど音信不通。「仕事の中身も、イラクに居たことも知らなかった」と話す肉親の姿に、いままで小説の世界と思っていた生き方が、実は知らないだけで、私たちの意外に近くにもあったという、重い現実を見せつけられた気がする。 「兄が、何のために、どういう使命感でそんな職業を選んだのか、理解できない。会えたらそれを問いたい」と記者会見で語った弟。聞きながら、こんな話を一緒にすること自体が不適切なのかも知れないが、ある話を思い出した。社会学者・宮台真司氏が、阪神大震災をきっかけに始まり、その後も新潟中越地震など多くの災害時に輪が広がっている若者たちの「ボランティア」活動について触れた分析である。 「彼らを見ていると、日本にもボランティアが根付きつつあると喜ぶのは早すぎることが分かる。ある学生は『廃墟の映像を見ているうちに、あそこに行けば何かがあるかも知れないと思い始めた』と言い、別の学生は『地元に帰ってもしばらくすると、居ても立ってもいられなくなり、また神戸に出かけてしまう』と言う。ボランティア精神に目覚めたのなら、震災が終わってもそれぞれの地元でボランティアに熱くなれるはずだが、そんな学生はまずいない。彼らが必要としたのは<廃墟の中>のボランティア活動だったのだ。若者たちの<終わらない日常>が震災によって打ち破られるとき、彼らは方向感覚、身体感覚を取り戻し、正しき道を生き直そうとするのではないか」 若者たちが、平常時には自分の存在意義をなかなか見出せない日本という国の実態が、共通してその背景にある――のだとすれば、それはとても、とても悲しいことだ。 |
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