コラム


 オウンゴール No.207
 華麗なパス回しと豪快なシュートでもぎ取ったわけでなかったのは残念だが、サッカー2006年ドイツW杯アジア最終予選・対バーレーン戦での辛勝を、素直に喜ぼう。

 ゴール前の競り合いからこぼれたボールをクリヤーし損ね、オウンゴールによる決勝点を献上してしまった敵軍エース。試合後も、健闘を称え合う両軍選手の列に加われず、1人離れて泣いていた。痛恨の心中は、敵ながら察するに余りある。

 「自殺点」という表現を、最近はしなくなった。94年W杯で優勝候補と言われたコロンビアが、やはりクリヤーミスから自陣にボールをこぼしたのが響いて敗退。そのミスを犯した選手が帰国後、カフェで数人の男に12発もの銃弾を打ち込まれて殺された事件が、「自殺点」と呼ぶのをやめるきっかけになったらしい。同時に、90分内に勝敗が決せず、延長後どちらかが得点した時点で試合終了になる「サドンデス(突然の死)」方式も、「ゴールデン・ゴール」方式とやらに言い換えられた。

 何もそこまで神経質になることもないじゃないかとは思う。だって野球界など一死、二死、併殺、封殺と、相変わらず盛んに殺しまくっているわけだし。

 ともあれ、オウンゴール。「どんな場面でも(ボールを)外に蹴り出そうとするDF(ディフェンス)は、プレッシャーを受けることで、自分がどっちを向いているか分からなくなることがある」とジーコ監督は試合後、敵失を労(いた)わった。省みればわれわれだって、悔やんでも悔やみ切れないオウンゴールを犯した経験は、これまで一度や二度ではあるまい。

 プレッシャーを受けると、パニクって、判断を誤る――「墓穴を掘る」というやつだ。

 倒産経営者の集まり「八起会」会長の野口誠一氏は、経営不振に陥り思い余って相談に訪れた経営者には、これからどうしようと思っているかの考えを聞きながら、必ず2つの点を相談者に確認するそうだ。1つは、「そのことを、奥さまと話し合われましたか?」、そして「奥さまは、そのことに賛成されましたか?」。

 「経営者は、苦境に陥れば陥るほど冷静さを失い、焦る。そんな状態での判断・決断は、ほとんど悪あがきに等しい。そして墓穴を掘る。それをカバーできるのは、夫の長所と短所、資質と性格、能力と手腕を知り尽くしている妻をおいて他にあるまい」と。

 いくら隠しても、虚勢を張っても、見抜いている妻。彼女は、とりわけ中小企業経営者には、冷静沈着な、頼りになる最後のゴールキーパー。徒(あだ)や疎かにしてはならぬ。

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