素人には「勝負が決まった瞬間」が分からないスポーツがある。剣道である。文化の日、第52回全日本剣道選手権をテレビで観た。決勝は鈴木剛六段×原田悟五段。 5分間の試合時間では決着がつかず、延長3分27秒、それまで守勢だった鈴木が、「とっさに閃いた」という「飛び込み面」で原田を負かし、初優勝に輝いた。決まった瞬間、3人の審判が一斉に旗を挙げ、鈴木の勝ちを認めたが、筆者はまたもや、試合後のスローVTRでその決定的瞬間を確認し、なるほどと感心するしかなかった。 4年前、48回大会での栄花直輝六段×宮崎正裕七段の決勝戦を思い出す。「平成の超人」と呼ばれ、過去に6回優勝し、3連覇を狙っていた宮崎に、栄花はその前年、初対戦していた。その時の栄花は、試合前に「作戦」を立てていたという。宮崎が得意とする「面」打ちを誘いながら、来たところを「胴」で払おう、と。 その瞬間が来た!と思った刹那、胴を払った。バシッ!と手応えがあり、「決まった!」と心の中で叫んだ。ところが……3人の審判は、自分ではなく、宮崎の勝ちを指していた。胴を打ちに行ったその一瞬早く、宮崎の竹刀が、栄花の面を捉えていたのだ。 自分はなぜ勝てないんだろう?――栄花は翌日から30分早く道場に出かけ、150畳もの道場の床の雑巾がけを始めた。毎日毎日雑巾を掛け続けたある日、彼は気がついたという。「自分は勝ちにこだわりすぎていた。それが逆に、隙を生んだのだ」と。 2度目の決戦になった1年後。栄花は、面を打ちに来た宮崎の竹刀を反射的にかわし、無意識に打ち込んだ小手で宮崎を破って、悲願の初優勝を果たした。 2003年イギリスで開かれた第12回世界選手権大会。栄花は団対戦大将に選ばれ、決勝戦で韓国の大将キム・ヨンナム選手と戦った。キム選手は、これまでの団体戦で日本選手に一度も負けたことがない強者。試合が始まり、5分…10分…ツバ競り合いが続いた。そして――キム選手が栄花の竹刀を大きく払い、体勢を整えようとした瞬間、栄花の捨て身の「突き」が、キム選手の喉を突いた。「素晴らしい試合を見せてくれて、ありがとう」と試合後、外国人選手が、涙を流しながら栄花に抱きついていた。 武道たる剣道の極意は、勝つことではなく、守ること。武道の「武」を「戈(ほこ)を止(とど)める」と書くのは、それが自国の民や領土、つまり「平和」を守るために使われるものだからであることを、とりわけ私たち日本人は、きちんと分かっていたい。 |
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