コラム


 「ビジネスネーム」 No.177
 「矛盾に満ちた天才」と称された太宰治は、ペンネームの由来さえ定かではない。

 本名・津島修治が太宰治というペンネームを使ったのは、「海豹」に発表した『故郷の話Ⅲ田舎者』という短文が最初で、小説では東奥日報の寄せた短編『列車』からだ。同紙の記者が当時、京大の仏文に太宰施門という先生がいたために、「太宰施門の真似ですか」と尋ねると「ボクのは天神様の太宰府の太宰だ」と答えた話は有名だ。

 ところが、数年後、女優の関智恵子との対談の中でペンネームの由来を聞かれた時には、「万葉集をめくっていて、これがいいってわけで、太宰。修治は、どちらも、おさめるで、2つは要らない。それで太宰治としたんです」と答えている。

 他にも、ドイツ語の「ダーザイン」(現存在)をもじったとか、高校時代に頭が上がらなかった同級生の太宰友次郎氏から拝借したなど、説は多い。しかし、真相は不明。

 作家には「意味あり気な筆名」が多いが、ユニークな名前もある。

 「お前のような奴はクタバッテシマエ!」と言われたことから名づけた二葉亭四迷。尊敬するエドガー・アラン・ポーにあやかった江戸川乱歩。本名の林髞(たかし)は大脳生理学者の著作で使用し、推理小説を書く時にはその字画を分解した木々高太郎。徹マン明けの一言「朝だ(アサダ)、徹夜(テツヤ)だ」からつけたのはマージャン小説の第一人者・阿佐田哲也。新聞記者と推理作家と二足のわらじをはいていた佐野洋は「社の用(シャノヨウ)もやっています」から採った。「奇名」が推理作家に多いのは、機知に富んだことを作品に採り入れるため、日々頭を捻っているからだろう。

 さて、「菊地厠子(かわやこ)」「除臭(じょしゅう)朝長(ともなが)」「漏利止(もりと)芽也(めや)」――この名前は何か。

 トイレの保守管理会社・アメニティの社員が持つ「ビジネスネーム」だ。社長の御手洗(おてあらい)銀三氏(本名・山戸里志氏)いわく、「トイレは『臭い』『汚い』などネガティブに捉えられがちだが、それを名前にすることで、取引先に興味を持たれ、明るく話ができる」というのが、その導入理由。実際、営業現場では効果が抜群だとか。

 レンタルのニッケンでも、社員が公私を分け、プロ意識を持つために、17年前に「ビジネスネーム」を採用。「情熱(じょうねつ)一郎」など個性豊かな名前が現われ、成果も上々だ。

 名は体を表わす――。個性がサラリーマンにも問われる時代でもあるから、「個人のブランド化」の一助になるなら、「ビジネスネーム」の導入を考えてもいい。

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