コラム


 口コミ情報と「集合知」  No.546
 高度成長時代を経験してきたサラリーマン諸兄なら、最近の職場の「幹事さん」はずいぶん楽になったものだと、この時期つくづく思うのではあるまいか。忘年会会場の飲食店を、最近はそんなに必死になって探さなくても済むからだ。

 「飲食店検索サイト」のおかげで、お店探しがずいぶん楽になった。その先発大手は1996年開設の「ぐるなび」。全国50万店の飲食店をネットに載せ、地域や和洋食などのカテゴリー、予算などの条件検索することによって、利用者が希望する飲食店を見つけ易いシステムを考案した。掲載店のクーポンを印刷し持参すれば料金が割り引かれるサービスも利用者に喜ばれ、その結果「ぐるなび」は月間2300万人(2010年3月現在)を超える人々に利用され、飲食店検索サイトとしてトップの支持を得ていた。

 ところが、その「ぐるなび」が昨年、人気トップの座を、2005年に開設された後発サイト「食べログ」(掲載66万店、月間利用者3050万人)に奪われてしまった。両サイトの大きな違いは「口コミ」情報の扱い方にある。

 「ぐるなび」は、飲食店から募った店発信の広告を掲載する、いわば飲食店広告雑誌のネット版。それに対し「食べログ」は、顧客が実際に飲食し、勝手に投稿した情報をそのまま載せる形式で、「満足度」も採点されている。そんな後者の「口コミ」情報が利用者に重宝がられ、「食べログ」は開設後5年で「ぐるなび」を追い越す人気サイトになった。このため、これまで口コミ情報には批判的だった「ぐるなび」も無視できず、先月からは利用者情報を一部反映させるなど、方針の転換を余儀なくされている。

 「集合知」という、ネット時代に生まれた新しい言葉がある。「大勢の人々が情報を持ち寄り、意見や議論を交わすことによって新たな付加価値を持って生まれる情報や言説」と定義付けられている。ただし――。

 「みんなの意見は意外に正しい」の著者ジェームズ・スロウィッキーは、「集合知」が正しく働く必須条件として次の4点を挙げている。一、多様性=各人が独自の情報を持っている 二、独立性=他人の考えに左右されない 三、分散性=各人の意見にばらつきがある 四、集約性=個々の判断を集計して1つの判断に集約するメカニズムが存在する。

 とすればさて、とかく付和雷同し易く、だから風評被害を起こし易い日本の社会に、正しい「集合知」が生まれる素地やいかにと問われると、ちょっと自信がない。

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