コラム


  「まさか」から「もしも」へ   No.513
 何度も報道されているのでご存知と思うが、今回の大津波に襲われた岩手県宮古市田老地区には「万里の長城」と呼ばれる全国最大規模の津波防潮堤があった。明治三陸津波(1896年)、昭和三陸津波(1933年)で多くの住民が亡くなったのをきっかけに、高さ10m、上辺の幅3m、総延長2.4kmという、まるで城壁のような防潮堤を造った。だから1960年のチリ地震津波では、三陸海岸の他地区で多くの犠牲者が出た中、田老地区では1人の死者もいなかった。ところが今回の大津波は、その防潮堤をやすやすと乗り越えた。死者・不明者数は200名に上るという。悲しい「想定外」だった。

 福島原発の重大事故が明らかになった3月13日、東京電力の清水正孝社長は記者会見で「一番の問題は津波によって非常用設備が浸水したこと。今回の津波の大きさは想定外だった」と説明した。うっかり鵜呑みにするところだったが、外国通信社ロイター電(30日)によると、東電の原発専門チームが2007年に米国の国際会議で発表したレポートには、「今後50年以内に起こり得る事象」として「13m以上の津波に見舞われる可能性は0.1%以下」だがあり、さらに「15m超の大津波が発生する可能性」を示唆する記述もあったという。つまり「想定内」だったということではないか。

 危機管理の要諦は「まさか」ではなく「もしも」の意識を持つことといわれる。「まさかこんなことは起きないだろう」という意識を排し、「もしもこんなことが起きたら、どうするか」という心構えこそ大事なのだ。決して難しくあるまい。なぜなら、私たちだって常日頃「もしも」意識を充分発揮しているではないか。「もしもジャンボ宝くじに当たって3億円が手に入ったら、あれを買い、これを買い、世界一周旅行をして…」と際限なく広げる豊かな空想力を、危機管理に向けられない理屈はない。

 本紙は28日、無作為抽出した会員読者1600社にFAXで「東日本大震災に関する緊急アンケート」への協力をお願いした。回答いただいたのは31日現在で516社。32.3%というかなり高い回答率は、そのまま今回の大震災に対する関心の高さを示そう。

 分析は後日に譲るが、被災地域に直接取引がない場合でも、コメント欄には「全国的な経済活動の停滞」「自粛ムードなどによる消費の減退」「東北・関東地区における計画停電の間接的影響」など不安を書き添える回答が少なくなかった。「まさか」が現実になったいま、「もしも」意識を持つ重要さを、私たちは教えられたといえよう。

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