コラム


  八百長の末路   No.507
 明治時代の話だそうだ。八百屋を営む長兵衛なので通称「八百長」は、趣味の碁が強く、素人ながらプロ棋士と互角に戦うほどの実力の持ち主だった。にもかかわらず、野菜を納めている得意先の相撲部屋の年寄・伊勢ノ海五太夫と打つときは、自分が勝ち過ぎて年寄の機嫌を損ね、商売がし辛くならないようにと日頃、手加減して打っていたことが、あるとき発覚した ―― それが「八百長」の語源とされる。

 「八百長」は、早い話「インチキ」である。「インチキ」の「イン」は「イカサマ」の「イカ」の変化、「チキ」は「高慢ちき」や「トンチキ」など人の状態を表す接尾語――などという余談はともかくとして、企業経営にも「インチキ」は見られる。企業の決算書は学生で言えば「成績表」に当たるが、企業が学生と違うのは、その「成績表」は他人が評価するのではなく、自分自身で作成している点だ。自己作成だから「水増し」も可能。ある程度の知識さえあれば、粉飾決算書を作るのはさほど難しくない。

 職業柄多くの決算書を見ていると、つじつまの合わない不自然さに気付くことがままある。その不自然さを隠すため、架空利益を計上し、台所が苦しいにもかかわらず、本来は払わなくてもよい税金を払ってまで虚飾を重ねているケースも少なくない。そうまでして粉飾に手を染める最大の目的は、銀行信用を得ることだ。

 今月初め、負債1300億円を抱えて会社更生法を申請したバイオテクノロジー企業「林原」(岡山市)もそうだった。市場をほぼ独占する糖質「トレハロース」や抗がん剤「インターフェロン」の生産で知られる同社は、その成長ぶりから「地方企業の雄」と称された。しかし、実は「売上高を水増しした決算書を複数作り、銀行には借入金残高を過少報告していた」と記者会見で林原靖前専務。グループ会社の決算期が異なる点を利用し、実態と違う不正経理を、なんと30年も前から続けていたという。非上場で、しかも同族経営 ―― 外部の目が届きにくい経営内部で「インチキ」が重ねられていた。

 企業経営は「利益」と「信用」の2つがしっくり噛み合うことによって「資金繰り」という歯車が円滑に回転する。その片方が「作り物」の脆い「利益」では、時間が経過するにつれ歯が欠けて齟齬を生じ、やがて資金繰りの回転が止まるのは自明の理。

 八百長が発覚した大相撲がこの先どうなるかはまだ見えないが、「インチキ決算」で信用を失った企業は早晩、「土俵」から締め出されることは、はっきりしている。

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