コラム


  サービスとは   No.503
 「帝国ホテル サービスの真髄」(国友隆一著、800円)と「帝国ホテルの不思議」(村上友視著、2400円)――業歴124年の伝統の中で培われ、かつ今日も脈々と息づく帝国ホテルの「サービス精神」の本質に迫る冊が昨年11月、ほぼ同時に発刊された。時期が重なったのは偶然にしても、消費多様化が進むいま、「真の顧客指向とは」を改めて考え直す時代の必要性=必然性がそうさせたのではないかと、筆者は考えたい。

 両書を読むと、帝国ホテルが考え、かつ日常的に実践している「サービス」というものの奥行きの深さ、幅広さ、あまりの細やかさに感嘆する。たとえば、玄関で最初に客を迎えるドアマンのあの手袋がいつも真っ白なのは、30分ごとに取り替えているからであることをご存知だったろうか。1日で40~50双は使うそうだ。

 客がチェックアウト後、掃除のため部屋に入る際は、「鼻から入る」のが鉄則という。人間は匂いに極めて敏感な動物だから、前の客が残したタバコ、香水、酒、食べ物、口臭・体臭などさまざまな匂いを、鼻が慣れてしまう前に嗅ぎ取り、脱臭する。長期滞在などで匂いが部屋に沁みついている場合は、完全に消えるまで使わない。

 掃除する時は、ソファやイスに座り、ベッドに横になり、バスタブにも身を沈めてみて、客と同じ目線になって汚れやシミ、指紋などが残っていないかを探す。

 宿泊客が部屋のゴミ箱に捨てたゴミを翌日まで保管している話は、どこかで聞いた覚えがある。しかし、保管しているのはゴミ箱のゴミだけではなかった。部屋に残された新聞・雑誌、パンフ、チラシ、レシート、飲みかけの缶ジュース、ペットボトル、食べかけの菓子やパン、薬など、置き去られたほとんどの物が一定期間、保管される。冷やしておいたほうがよい物は、専用の冷蔵庫で最長2年も。

 最も驚くのは、バーでの、実に繊細な気配りだ。バーテンダーは、1杯目のグラスは客の右斜め前に置くが、2杯目以降は置く場所をさりげなく変えることが多いという。なぜなら、人はそれぞれ、飲みながら無意識にグラスを戻す位置が微妙に違う。そこで、その位置をさり気なく観察し、2杯目以降はその場所にそっと置くのだとか。

 そうしたサービスのほとんどが、客の目からは見えない、気付かない場所・場面で、習慣化して行われていることが何よりすごい。そんな帝国ホテルのサービスの真髄を、泊まって実感する時間やお金はなくても、読んで学ぶに価する両書だと思う。

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