コラム


  多様性   No.488
 「生物多様性条約第10回締結国会議」、略称「COP10」が10月18日~29日に名古屋で開かれる。「生物多様性」という表現がそもそも分かりにくいが、平たく言えば、「極めて多種多様な生物が存在している状態」のことだ。

 地球上の生物は、科学的に確認されているだけで140万~180万種、未発見のもの含めると3000万種を超すとみられている。ところが一方で、人間による環境破壊の影響で、種の絶滅が猛烈な勢いで進んでいる。100年前には1年間で1種、30年前は1000種だった絶滅スピードが、近年では4万種ペースに達するとさえいわれる。

 そういう事態の深刻さを、私たち人間が充分実感していないことが一番危険なのだ。なぜなら、たとえば宇宙飛行船「スペースシャトル」は、1機が約250万個の部品から成る。その内のたった1個の部品「O(オー)リング」が損壊・欠落したことによって、1986年、「チャレンジャー」号は発射73秒後に爆発・空中分解し、7名の宇宙飛行士が亡くなった。同様に、いま70億人近い私たち人類は、毎年4万個ペースで部品を失いながら飛ぶシャトル「地球号」に相乗りしていることを、もっと強く意識する必要がある。

 意味は全く違うのだが、歴史学者・磯田道史氏が、最近創刊された雑誌「kotoba(コトバ)」で語っていた別の「多様性」についての指摘にも、真摯に耳を傾けたい(=対談「江戸の多様性を語る――江戸に生きる日本人は、なぜ幸せだったのか?」)。

 「僕が江戸の社会分業で一番恐ろしいと思ったのは、蒔絵の筆なんですよね。ものすごい細筆で、1ミリの中に10本以上の線を引くこともある。そのための、毛先がきちんとした筆を作るには、琵琶湖に浮かぶ穀物船に棲みついているネズミの脇の下の毛がいいんだそうです。そうすると、筆を作るために、穀物船の中でネズミを捕まえるだけで食べている男がいて、その毛を縒(よ)って筆に仕立てるだけの人がいて、その筆を使って生涯、蒔絵の細かい線を描くだけの人がいる。江戸社会にタウンページがあるとしたら、恐らく職業分類は当時の地球上で最も多様だったに違いないでしょう」

 「つまり」と磯田氏。「江戸の日本人の幸せというのは、しっかりした自分の持ち場を持っていることの幸せだと思う。今は自分の持ち場が保障されない、いつその持ち場が失われるかという不安の中にいる、というのが非常に残念です」 各人が生き甲斐を感じられるよう多様な「持ち場」を生み出す努力が、国の宰相、企業の経営者には求められよう。

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