コラム


  生き返るには・・・   No.484
 1300年の歴史を持つ石川県・山代温泉郷。白山連峰と加賀路を一望できるその高台に建つのは、客室数94室、収容人員700人を誇る屈指の老舗旅館「山下家」だ。1805年(文化4年)創業、加賀藩主の湯治場として発祥、元加賀市長が先代社長を務めるなど、格式・知名度とも自他ともに認める高級旅館だった。

 その同社が民事再生法の適用を申請、事実上倒産したのは2008年5月。負債35億円だった。バブル崩壊後、日本人の旅行・宿泊スタイルが「温泉よりリゾート地へ」「旅館よりホテルへ」と変化していった大きな環境変化に加え、前年3月に発生した能登半島地震で客足がさらに遠のいたことが経営的に響いた。

 あれから2年余。「山下家」はいま、山代温泉街の中で「最も予約を取るのが難しい人気宿」として、旅行誌やネットのあちこちで取り上げられている。

 その「山下家」を現在経営しているのは東京・江東区に本社を置く大江戸温泉物語(株)。同社は2003年、東京・お台場に日本初の温泉テーマパークを開業して成功させた実績を背景に、経営難に陥った全国各地の湯宿の再生をプロデュース。昨年4月、同社の完全子会社になり再スタートを切った「山下家」も、見事に立ち直りつつある。

 客室や入浴施設を、大金を投じてリニューアルしたわけではない。従業員も元社員を優先的に雇った。では、離れていった客を、どうやって呼び戻したのか?――それはズバリ「低価格戦略」だ。かつて老舗高級旅館として一泊二食最低2万円以上だった宿泊料金は現在、大人4人以上一室6700円という安さだ。ただし――。

 「旅館」といえば「仲居さん」がいて、部屋に通されると彼女たちがまず茶菓でもてなし、部屋食の準備や寝具の用意をしてくれる。ところが新生「山下家」には、担当の仲居さんはいない。客は、旅館に着くとまずフロントで部屋、食事、風呂の説明を受け、案内図を手に自分で探して辿り着いた部屋には、すでに布団が敷かれている。朝夕の食事は館内レストランでの食べ放題、飲み放題のバイキング形式だ。

 ビジネスホテルのセルフサービスとほとんど変わらない。けれども、ホテルスタイルに慣れた最近の宿泊客には、「仲居さんに気を使わなくてすむのは、かえって気楽。何より、この価格で老舗旅館に泊まれるのが嬉しい」と高い人気を得ているのだ。

 生き返るには中途半端はダメ。根本的な体質改善こそ必要 ―― の教訓がここにある。

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