コラム


  そっとしておく大切さ   No.478
 郡上のな~ 八幡 出て行くときは(ア ソンレンセ) 雨も降らぬに 袖しぼる…

 岐阜県郡上八幡の盆踊り「郡上踊り」が、すでに先々週10日から始まっている。8月13~16日の「徹夜踊り」を挟んで、今年は9月4日まで延べ32夜続く。

 ネットの各所に「日本三大盆踊りの一つ」とあった。岐阜県「郡上踊り」と徳島県「阿波踊り」、そしてもう一つが秋田県「西馬音内盆踊」であると。その「西馬音内盆踊」を知らなかった。「西馬音内」を「にしもない」と読むことさえ。

 秋田県雄勝郡羽後町西馬音内は、西南に鳥海山を望む人口5200人の町。その集落で今年も8月16日~18日に行われる「西馬音内盆踊」は慶長6年(1601年)、西馬音内城主・小野寺茂道の遺臣が主君を偲んで行なった亡者踊りが起源とも伝わる。

 動画サイト「You Tube」などでぜひご覧いただきたいと思う。「音頭」と「がんけ」と呼ばれる2つのお囃子のリズムやテンポ、歌詞は賑やかで大らかなのに、数枚の着物を縫い合わせた独得の「端縫いの衣裳」と鳥追いの深い編み笠、あるいは黒い「ひこさ頭巾」で顔を隠した踊り手たちの、踊りの手さばき、足さばきは優雅そのもの。薄暗い篝火の周りを巡る光景は、異次元の世界に迷い込んだような錯覚と感動を覚える。

 だからこそ1981年(昭和56年)、「西馬音内盆踊」が盆踊りでは初めて国の重要無形民俗文化財に指定されたことや、10年前に某局が全国テレビ生中継したのがきっかけで、現在は3日間で延べ20万人もの観光客が押し寄せる人気を得るようになった理由も理解できる。機会があれば自分もぜひ行って、見たいと思う。しかし――。

 西馬音内盆踊保存会が、記録保存のために作ったというDVDの中で、女性ナレーターにこう語らせている。「この日(撮影のために)集まった囃し方、踊り手の数およそ80人。盆踊り本番と違い、ごった返す観光客もストロボもない。この静かな盆の舞いを見た町の人が呟く。『昔の盆踊りはこんなだった。自分たちが踊れればよかった』(略) 西馬音内の盆踊りは、先祖の霊が共に輪に加わり踊るとされている。しかし割り込む観光客、絶え間なく焚かれるカメラの閃光は、篝火に浮かぶ踊り手の姿を現世へと呼び戻してしまう。本来の姿、西馬音内盆踊の根源を、忘れてはならない」

 いまや全国区になった「越中おわら・風の盆」の地元・富山市八尾の町でも昔、土地の人からまったく同じ呟きを聞いた。そっとしておく大切さも、余所者は考えたい。

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