コラム


  聞きなし   No.468
 この季節、足を少し郊外へ延ばして耳を澄ますと、意外に多くの野鳥の鳴き声を耳にできる。鳥にとっては春から夏が恋愛―結婚―出産―子育ての時期だからだ。

 しかも日本は、国土が南北に結構細長い地理的条件から、「600種近くが確認されている世界有数の野鳥王国」(日本野鳥の会)であることをご存知だろうか。1年を通じて住むスズメやカラスなどの留鳥のほか、春に南から日本に来て秋に帰るツバメ、ホトトギスなどの夏鳥、秋に北方から来て春に帰るツグミやオオハクチョウなどの冬鳥、夏は北で、冬は南の国で過ごす途中に日本に立ち寄るシギ、チドリなどの旅鳥、日本に年中いるが繁殖期には高い山へ移動するルリビタキなどの漂鳥――等々。

 これら野鳥の鳴き方には2通りある。仲間との連絡用に「チチッ!」などと短く鳴き交わす「地鳴き」。もう1つは、オスがメスを誘ったり縄張りを主張するための「さえずり」である。後者では「法法華経」というウグイスのさえずりが代表的だが、ほかにも、ホオジロ「一筆啓上仕り候」、ホトトギス「てっぺんかけたか」「特許許可局」、ヒバリ「日一分、日一分、利取る、利取る」(上る時)、「月二朱、月二朱」(降りる時)、コジュケイ「ちょっと来い、ちょっと来い」、イカル「お菊二十四」「月・日・星」、メジロ「長兵衛・忠兵衛・長忠兵衛」など、実に多彩な鳴き方を楽しめる。

 ――というように、鳥の鳴き声を何か意味があるかように聞き取ることを「聞きなし」と呼ぶ。外国にはほとんど例がない日本独得の「文化」の1つと言ってよかろう。

 ただ、時にはこんな勘違いも起こる。「♪ぽっぽっぽ 鳩ぽっぽ 豆が欲しいか そらやるぞ…」――1911年(明治44)初出の尋常小学唱歌「鳩」(作詞・作曲不明)である。ところが、エサをやると集まってくるハトは大陸から持ち込まれたドバトで、そのドバトは「クウクウ」とは鳴くが「ぽっぽっぽ」とは鳴かない。「ぽっぽっぽ」と鳴くのは日本在来のキジバトで、しかしキジバトは群れてエサを求めたりはしない。唱歌「鳩」には、その数年前に東(ひがし)くめが作詞した別の童謡「鳩ぽっぽ」(作曲・滝廉太郎)があり、どうやら東が鳴き方を取り違えた誤りが、そのまま残ってしまったらしい。

 さて――。最近は「ぽっぽっぽ」ではなく「キチモンダイ ゴガツマツ ケッチャク ケッチャク」とムキになってさえずる“鳩”山さん。けれども、国民には「ホントカイナ ホンマカイナ」「マタ ブレソウ マタ ブレルノカ」としか聞きなせないのが、悲しい。

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