コラム


  平均回帰   No.462
 「鳶が鷹を生む」の諺がある。ご承知の通り、平凡な親から突然、優秀な息子が生まれることの喩えだ。けれども、そうやって生まれた優秀な子供から、引き続き優秀な子供が生まれるかというと、そうは問屋が卸さないから世の中はままならない。

 「平均回帰」という統計学用語がある。1回目の試験結果が「特別に良かった」あるいは逆に「特別に悪かった」事象において、2回目の試験結果は1回目の試験結果よりも、1回目全体の平均値に近くなる傾向が強い現象のことをいう。1887年にスイートピーの種子の重さを観察していてこの現象を見出したイギリスの人類学者フランシスコ・ゴルトンは、人間の親子についても、背の高い父親を持つ子供は必ず背が高いとは限らず、むしろ子孫はだんだん平均的な身長に近づいてゆく現象を指摘した。

 こうした「平均回帰」現象は、学校や会社など集団組織における人間教育の場面にも現れるとされる。たとえば人を育てるには「叱る」より「褒める」ほうが有効的とされているにも関わらず、学校や会社など実際の教育現場では、教師や親、上司は、子供や部下を、ついつい厳しく叱ることで育てようとする傾向が強くなる。

 それは、子供や部下が良い成績を収めた時、褒めてやっても、その後も高い水準を維持するのは容易でなく、「平均回帰」して元に戻ってしまう傾向が強いため、「褒めた」効果があまりなかったように思ってしまうからだ。

 逆に、悪い成績を上げた時に叱ると、次の機会では単に「平均回帰」現象で成績が少し戻っただけなのに、「叱った」効果があったと都合よく理解してしまうことが少なくないからだそうだ。つまり、人を教育するに際して問われるのは、教育される側の資質以上に、彼らを教育する側の資質や能力だということになる。

 昨日から4月、新年度。職場に若々しい顔が加わった企業も多かろう。今年の新入社員のタイプを、日本生産性本部は「ETC型」と命名した。その「ココロ」は「性急に関係を築こうとすると直前まで『心のバー』が開かないので、スピードの出し過ぎに用心。IT活用には長けているが、人との直接的な対話がなくなるのが心配。理解していけば、スマートさなど良い点もだんだん見えてくる。“ゆとり”ある心を持って上手に接したい」と。彼ら新人が来年の今頃には「平均回帰」して個性を失っていることのないよう、大事に育てたい。苦しい中を、せっかくがんばって迎え入れた人材なのだから。

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