コラム


 増える「シンプル族」  No.441
  「とめてくれるな おっかさん 背中のイチョウが 泣いている」のフレーズの後に続く言葉が「男東大 どこへ行く」だと知っているのは60代だろうか。学園闘争が過激化していた昭和43年(1968年)、学生同士の衝突を避けようと、東大生の母親たちが大学正門前に並び、キャラメルを配りながら説得する出来事があった。冒頭は、その年秋の東大教養学部の学園祭「駒場祭」ポスターの、話題になったキャッチコピーだ。

 このポスターを描いた橋本治氏は卒業後、文筆業に進んで多くの著書を出しているが、中でも社会評論としての代表作は1998年刊「貧乏は正しい!」だ。「現代日本の貧乏人とは、『“自分は貧乏じゃないぞ”ということを他人にアピールするために最も多くの金を使う人間』だったりもする。つまり、現代のエンゲル係数とは、家計に食費の締める割合ではなく、家計にミエの占める出費の割合なのだ」

 たしかにそんな時代があった。しかし、時が流れ、いまその対極にあると言うべき社会現象は消費社会研究家・三浦展氏の分析による著書「シンプル族の反乱」だろう。

 副題を「モノを買わない消費者の登場」とする同書で、三浦氏はいま日本で増大している新しいタイプの消費者を「シンプル族」と名付け、こう描いている。「彼らは物をあまり買わない。テレビをあまり見ない。インターネットで商品についての情報を集め、慎重に吟味し、比較考慮し、十分に納得した上でないとなかなか物を買わない。一方で、ユニクロや無印良品のようなシンプルなものは好んで買う」

 たしかに大型小売店の売り上げ動向には、「シンプル族」の増加が明確に映し出されている。たとえば2009年8月中間決算で、大丸・松坂屋を抱える「J・フロントリテイリング」の連結売上高は前年同期比13.3%減、営業利益は53.9%減。高島屋も売上高12.2%減、営業利益63.0%減だった。これに対し、「ユニクロ」は売上高が16.8%増、営業利益は24.2%増。両者の際立った明暗はその反映にほかあるまい。

 「シンプルな暮らしの魅力に気づいてしまったシンプル族は、たとえ今後景気が回復しても、もう浪費的な生活には戻らないだろう。だから、このシンプル族を理解しなければ、もう企業は生き残れない」と三浦氏。

 従来商品に何かを「足す」のではなく、むしろどう「削る」ことでシンプル化してゆくか――商品開発の考え方を大転換しなければならない、とても難しい時代を迎えている。

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