コラム


 モラトリアム  No.438
 「中川昭一氏、急逝」の臨時ニュースを聞いた誰もが、反射的に「同じこと」を脳裏に描いたのではないか。「そう言えば…」と、「北海のヒグマ」と呼ばれた自民党タカ派の父・一郎氏の、26年前の自殺を思い出したのは時間が少し経ってからにせよ、今年2月、先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議での「もうろう会見」が批判を浴びて辞任。衆院選では比例での復活さえ果たせず落選した彼の、傷心の深さは察するに余りあるから突然の訃報に妄想をつい広げてしまった不謹慎を詫びねばなるまい。

 涙を拭いながら中川邸を後にする亀井静香郵政改革・金融担当相をテレビで見た。「モラトリアム」構想でいま注目の亀井氏が早々と弔問に訪れたのは、平成17年の郵政民営化法案に亀井氏が反対票を投じて自民党を去るまで、彼らは旧派閥「志帥会」メンバーとして親しかったからだ。人前で落涙を憚らない亀井氏の、悲しむというよりは悔しそうな表情に、元同志の早世を心底悼む人情家の一面が見えた。

 その亀井氏が推し進めようとしている、中小企業の借金の元本の返済を猶予しようとの「モラトリアム」構想も、旧タイプの政治家だが人情家の彼らしいアイディアだと評価する向きがある半面、問題視する声が少なくないのが実情だろう。

 日本では関東大震災(大正12年)と金融恐慌(昭和2年)の2回、モラトリアムが実施された。ただし両回ともあくまでも「緊急避難措置」だから、実施期間は前者が30日、後者でも3週間と短かった。それに対し「3年程度」と言われる今回は、実施されれば日本経済に与える影響の深さも広さも質も、まるで違ってこよう。

 不良債権のリスクが増す金融機関が、影響を最小限にとどめるため、貸し出し金利を引き上げたり融資審査を厳しくするなど、対抗的措置による「逆効果」が現れるのは明らか。また、借り手の中小企業自体にも「返済が先延ばしになるだけ」「猶予期間後の景気が回復していなければ意味がない」等々、効果に懐疑的な見方が少なくない。

 「モラトリアム」には、経済用語としての「返済猶予」以外にも、核実験や商業捕鯨、死刑執行などの「一時停止」や、学生が実社会に出て一人前になるまでの間、社会的責任や義務が猶予される「半人前」の期間を指す意味もある。

 「政権交代で、日本もようやく青年期から大人へ脱皮が図れた」と作家・村上春樹氏。であれば、中小企業をいつまでもただ半人前扱いするような政策なら、いかがかと思う

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