コラム


 「年輪経営」を支えるのは  No.418
 名古屋市在住のコラムニスト・志賀内泰弘さんが、身近で見聞きした心暖まる逸話ばかり29話を集めて先月出版した本「みんなで探したちょっといい話」の中に、長野県のある食品会社の、次のようなエピソードが載っている。

 社員のほとんどが車通勤しているその会社では、会社の敷地に入るときは道路を右折せず、手前で一旦左折したあと右折→右折と大回りして入るよう教育しているという。また休日にスーパーなどへ車で出掛けた際も、店舗の出入口から一番遠い場所に停めるようにとも。会社への右折禁止は後続車を止めて渋滞を招かないため、遠くに駐車させるのは身体の不自由な人や高齢者に、出入りしやすい駐車位置を譲るためだ。

 伊那食品工業――本社は長野県伊那市。年商160億円(08年12月期)、従業員400人。寒天製造では国内80%、世界15%のシェアを誇る。未曾有の寒天ブームが起こった2005年、周囲の強い要請に折れて増産に踏み切ったことを、塚越寛会長は「いま振り返っても忸怩たる思い」とインタビュー(日経ビジネスオンライン)で悔やんでいる。ブームのおかげで売上高は前期比40%増、経常利益は倍増したけれど、反動で翌期は業績が大きく後退し、それまで48年間も続けてきた増収増益が途切れてしまったからだ。

 塚越会長が理想とするのは「年輪経営」。「木々は無理に成長しようとはしません。年輪は、その年の天候によって大きく育つこともあれば、小さいこともあります。しかし、前の年よりは確実に広がっている。年輪の幅は狭くとも、確実に広がっていることが大切なのです」(著書「リストラなしの『年輪経営』」)

 その「年輪経営」を支える最大の資産は「社員」だと塚越会長は言い切る。「私は、人件費はコストとは考えません。人件費は(会社経営の)目的なのです」「利益を上げようとするならば、まず商品やサービスの付加価値を上げることを考えるべきです。そして、適正な価格で売れる仕組みをつくることです」「残念なことに最近は、付加価値を高めるという大変な労力のかかる仕事をおろそかにして、コスト削減という手っ取り早い方法に走っているように思えます。リストラなどは、その最たるものでしょう」 

 これまで一度もリストラをしたことがない同社は、それどころか現在も終身雇用、年功賃金の体制を崩していない。「とても無理…」とチャレンジしようともせず口にするようでは、経営者としての資格の、有りや無しやを問われそうだ。

コラムバックナンバー

What's New
トップ
会社概要
営業商品案内
コラム
大型倒産
繊維倒産集計