コラム


 届かぬ「SOS」  No.409
 往年のアイドルユニット「ピンクレディ」のヒット曲「SOS」は、発売(1976年)後の一時期、放送を見送られた。イントロに2秒間「トトトツーツーツートトト」という、国際的で当時定められていた「遭難」を知らせるモールス信号が使われていたからだ。実際、ラジオで聴いて本物と間違え、騒動になった事件があったためらしい。

 「SOS」――誰でもご存知だろう。「Save Our Ship」(われらの船を救え)とか「Save Our Souls」(われらの魂を救え)などの頭文字を採ったとの説があるが、そうではない。上記の通り「SOS」は、モールス信号の短点が並ぶ「S(トトト)」と長点が並ぶ「O(ツーツーツー)」をシンプルに組み合わせた、素人でも分かり易い信号だったからで、1906年の第1回万国無線通信会議で国際的な遭難信号として採択された。

 その「SOS」信号を世界で最初に発したのは1912年、処女航海中に氷山に衝突して沈没、乗客乗員1513人の犠牲者を出した英国の豪華客船「タイタニック」とされているが、これにも異論がある。それより3年前の1909年、アゾレス諸島で難破した貨物船「スラボニア」が「SOS」を発信したのが、どうやら最初らしい。

 という余談はともかく、「タイタニック」の沈没はその数時間前、近くを航行中の貨物船「カリフォルニアン」が「氷山接近」の危険を打電したにもかかわらず、「タイタニック」の通信士がそれを無視したことに原因があったとされている。当時、豪華客船の乗客は船内から知人などに電報を打つのがステータスシンボルとされており、当日も殺到する電報の処理に忙殺されていた通信士が、通信に割り込もうとする「カリフォルニアン」に「後にしてくれ」と取り合わなかったからだそうだ。このため氷山に衝突後、「タイタニック」が「SOS」を発した時には、最も近くにいた「カリフォルニアン」は無線の電源を切ってしまっており、直ちに救助に向かうことができなかった。

 「タイタニック」沈没から97年後のいま、世界で、日本中で「SOS」が発信されている。米国ではビッグスリーが総額150億ドルを超す公的資金の投入を政府に要請し、日本でも札幌北洋ホールディングス(札幌)、南日本銀行(鹿児島)、福邦銀行(福井)の地方銀行3行が合わせて1200億円の公的資金注入を申請するという。

 強力な大企業・銀行の「SOS」は届く。なのに、貸し渋りから倒産を余儀なくされる中小企業や、職を失った労働者の、あまたの「SOS」は、なぜ政府に届かないのか。

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