コラム


 「おくりびと」  No.407
 今回の世界不況の震源地・米国はいま、同時に対イラク戦だけでも公式には4000人、一説では2万人超の米兵の死者を出している戦時中国家でもある。そのように国家と国民生活の現在・将来への不安が底流にある時期だからこそ余計、死生観に触れる静かなこの映画がさまざまな感慨をもって受け止められ、高い評価を得たのではないか。

 「おくりびと」が、米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。遺体を清め、装束を着せ、化粧を施して棺に収める「納棺師」という、日本でもあまり耳慣れない職業を描いたこの映画は、主演・本木雅弘が昔インドを旅した際、人々がごく日常的な習慣として遺体を河原で焼いている光景を見て感動し、その後、納棺師・青木新門氏の著書「納棺夫日記」を読んだことから、その映画化案を持ち込み、実現させたという。

 職業に貴賎なし――と口では言う私たちだが、実際は、人間の死に関わる仕事を忌避する気持ちがあることを率直に認めなければなるまい。しかも昔とは逆に死者の9割以上が、自宅ではなく病院で亡くなる最近の日本では、だから湯灌(ゆかん)など遺体に必要な「処理」を、ほとんど病院や専門業者など他人任せにしている。その結果、「親族が自らの手で死者を送る“命のバトンタッチ”がなくなってしまった」と青木氏。

 その意味で「おくりびと」は、現代日本人の意識から薄れつつある死生観に迫り、家族や親族のあり方を問い掛ける映画だ。劇場に足を運び、ご覧になってはいかがか。

 そして実はもう一つ、躊躇いながらも覗いてみることをお勧めしたいブログがある。ブログ名は「特殊清掃『戦う男たち』」。ただ、勧めながらも躊躇うのは、かなり強烈な場面が日々描写されている日記だからだ。「特殊清掃」とは、自殺や孤独死、事故死など尋常ではない形で亡くなった遺体の処理や、現場の清掃を専門に扱う仕事――。

 一人暮らしの20代男性がアパートで自殺し、死後2カ月近く経って発見された。その現場の、想像に難くない凄惨な状態や、そのとき自分は何を感じたかを、「特殊清掃」を生業とする筆者が、感情を抑えながら書き綴っている。当日の日記には、ある読者がこんなコメントを寄せた。「自殺を考えていました。死んだら綺麗なまま発見されるものと思っていましたので、正直衝撃的でした。頑張ってみます。私の命を助けて頂きありがとうございます。本当にありがとうございます」 私たちの平和な日常社会は、彼ら「おくりびと」たちによって助けられ、支えられていることを、知っていたい。

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