コラム


 「偽装弱者」  No.402
 ▽スーパーで菓子類49点(金額7379円)を万引きし、窃盗などの容疑で起訴された4児の母の初公判が開かれた日は、皮肉にも彼女の28回目の誕生日だった。6年前に夫と死別し、「経済的に苦しかった」「子供たちにお菓子を食べさせてやりたかった」と彼女は法廷で涙ながらに動機を語った。気の毒と思う、ここで話が終わるなら。

 しかし、彼女が万引きで検挙されたのは3度目。18年には懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けていた。だから今回の犯行で執行猶予が取り消され刑務所行きになるのを恐れた彼女は当初、親友の名前を勝手にかたり、罪を逃れようとした。その彼女が受けていたという生活保護の金額を聞いて驚いた。なんと、月額35万円だそうだ。

 ▽「消防白書」によると、19年中に救急車で病院へ運ばれた人は490万2753人。前年より1万人余多く、過去最多を更新した。けれども実態は、搬送先の病院の医師から「入院加療を必要としない」と診断された軽症者が52%と過半を占める。

 「タクシーを呼ぶと金がかかるから」「救急車で運んでもらったほうが優先的に診てもらえると思ったから」などと、救急車を呼んだ理由を平気で口にする者もいた。救急車が現場に到着するまでの所要時間が平均7.0分と過去最長に延びた原因の1つは、そうした不届き者による不要不急の119番コールが増えたことにあると関係者は嘆く。

 ▽身障者やその介護者が車を運転する場合の「駐車禁止除外指定」制度がある。身障者の社会進出を支援するため、目的地に駐車スペースがない場合、法定の駐車禁止区域でも駐車することを認める許可証を、申請に応じて各県警・公安委員会が発行する。昨年の改正で、許可する障害の等級も従来よりやや緩和された。大変結構な制度だ。

 しかし――。他方でその不正使用が問題にもなっている。除外指定証を持っていても駐車禁止区域での長時間駐車は許されないのに、路上を日常的な車庫代わりに使っていたり、家族が、身障者を乗せていないのに、フリーパスのように使っているケースもある。――等々はみな例外中の例外と思いたい。が、果たしてそうなのか。

 格差社会で弱者が増えた。けれども「偽装弱者」もまた増えているように思える日本。総理大臣はじめ世襲の「政治屋」が少なくない日本。「60年前、地元のレストランで差別された父親の息子」が頂点に登り詰めた日、民度や政治における彼此の差を感じながら、米国オバマ新大統領の、力強く自信に満ちた就任演説を、複雑な思いで聴いた。

コラムバックナンバー

What's New
トップ
会社概要
営業商品案内
コラム
大型倒産
繊維倒産集計