コラム


 研ぎ澄まして聴こう  No.379
 石川県白山市で先月、国内最長とされる「恐竜の歯」の化石がほぼ完全な形で発見された。8.2cmというその長さや周辺の地質から推測すると、1億3000万年前の白亜紀前期に生息していた、体長9mほどの大型肉食恐竜の歯とみられる。また2年前には兵庫県丹波市で、のちに「丹波竜」と命名された、やはり白亜紀前期に生息していたティタノサウルスらしき恐竜の化石が見つかって話題になっている。

 「不況になると恐竜ブームが起きる」という、嬉しくないジンクスがあるらしい。言われてみればなるほど、オイルショック時には「ソ連恐竜展」が、昭和50年代の不況期には「中国恐竜展」が開催されて人気を集めた。バブル崩壊後も恐竜映画「ジュラシックパーク」が大ヒットし、去年には岡山県倉敷市や和歌山県海南市の自然博物館が各々開いた恐竜展も来館者で賑わったという。単なる偶然か、それとも不況による先行き不安感が「滅んでしまった恐竜」に重なる人間心理の表れなのだろうか。

 いまから2億2800万年前から6500万年前までの、実に1億6300万年もの長い時代生息してきた恐竜が、ではなぜ絶滅してしまったのか ――。地球に小惑星が衝突し、生存環境が劇的に変化してしまったためとの説が有力だが、ほかにも太陽活動の低下や地球磁場の逆転、生殖能力の低下、アルカロイド中毒、巨大噴火による「冬の時代」の到来等々、諸説あって定かではない。が、いずれにせよ恐竜は、その巨大さゆえに環境変化に対応し切れなかったという点では、どうやら見解が一致している。

 ただ、そんな肉食恐竜時代を、捕食されもせずに生き延びた哺乳動物がいた。体長わずか10〜40cmの「ハツカネズミ」に似た「ラオレステス」である。彼らが生き延びることができたのは、恐竜たちが眠りにつく夜に活動する道を選んだからだ。

 夜の世界を生きるには、昼に活動する動物とは別の能力が必要だ。それは、暗闇でエサを探すのに欠かせない鋭敏な「聴覚」。だから「ラオレステス」は耳に、爬虫類や両生類にはない、音を精密に聴き分ける骨を持ち、同時にその精度を高めるための大脳新皮質が発達した。そして「ラオレステス」から同じ耳の構造を受け継ぎ、能力を知能へと進化させた何万年か後、彼らを祖先として生まれた哺乳類が「人間」である。

 せっかくの聴力を、大事にしよう。遮られて見にくい事柄も、耳を研ぎ澄ませば、いろんなことが分かるものだ。役人や政治家の詭弁や嘘、不心得な経営者の弁解もである。

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