コラム


 ささやき、つぶやき、ぼやき  No.370
 「船場吉兆」が廃業に追い込まれた。ニュースを聞いて誰もが「ほほぅ」と声を上げたが、といって誰もが驚いた(・・・)わけではたぶんなかったろう。「仕方がない」「当然」「遅きに失した」等々、手厳しい感想が少なくない。客の食べ残しの「使い回し」がとどめを刺すダメージになったが、その事実を昨年、一連の不祥事が露見した際に一緒に懺悔していればまだよかったかも知れないし、何より、会社再建の責任者をあの「ささやき女将」が担っていなかったなら、また別の道が開けていたのではないかとも思う。

 顰蹙(ひんしゅく)を買った女将の「ささやき」とは対照的に好評なのが、現在ところ意外に好調なプロ野球「楽天イーグルス」野村監督の、試合後に繰り出す「ぼやき」「つぶやき」である。先日も勝ち試合での先発・永井投手の出来を問われて、「いいんだか悪いんだか。3人で終わらないもんな。間合いがナガイ、試合がナガイ、名前もナガイのスリーロングだ」。苦笑いしながらも、聞くのがだんだん楽しみになってきた。

 後で本人の耳に届くことを計算したうえでこぼす野村監督の試合後の「ぼやき」「つぶやき」が、選手には何かのヒントや発奮材料になったりする。楽天に拾われ、いまやチームを引っ張るベテラン・山崎武司が言っている。「野村さんは野球がすべての人だと思っていた。それが、人間教育を一番に考えている人だと分かった」

 「心が変われば態度が変わる。態度が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。運命が変われば人生が変わる」――野村監督がよく口にする。ヒンドゥー教の教えだそうだ。ベンチではいつも野村監督のそばに座り、試合中の「つぶやき」「ぼやき」を自ら積極的に聞くことにしたベテラン・山崎の野球人生は、たしかに変わった。

 「現代の超成熟時代に中小企業が新しいニーズを掘り起こすのは容易ではないが、それを可能にする1つの方法は、顧客の『つぶやき』を聞き取ることだ」と黒瀬直宏専修大学教授は言い、こう続ける。「しかし、顧客にただ『つぶやいてください』と頼むわけにはいかない。つぶやいてもらうためには、つぶやきを促す情報をまず先に提供しなければならない。情報を提供し、その反応の中から顧客の『つぶやき』を積極的に聞き取りに行く姿勢が大事なのだ。知りたい情報は、情報を発信する所に集まる」

 「不景気だ」「儲からない」「政治が悪い」――ボヤくだけに、とどまってはいないか?

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