コラム


「軽老」への怒り No.366
 若者たちは今風に言葉を縮めて「ハモ横」と、また古くから地元に住む年配者は「マーケット」と呼ぶ武蔵野市の吉祥寺北口駅前商店街、通称「ハーモニカ横町」。戦後の闇市が発祥のその一角に、当時から店を構えていた履物店が昨年、店を畳んだ。「長年のご愛顧、本当にありがとうございました。閉店セールのようなことはせず、ひっそりと店を閉じることにしました。先代店主の好きな言葉『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』の通りに…」と綴った「あいさつ」が、店のホームページに現在も残されている。「ミセス向き履物の低迷と従業員の高齢化」が閉店を決意した理由だそうだ。

 「老兵は…」―― 国連軍最高司令官マッカーサー元帥の言葉である。朝鮮戦争時、北朝鮮を支援した中国を攻撃することも辞さないと発言したのを咎められ、トルーマン大統領から解任されて任務を離れる際、そう言い残した。それまで国に、世界に、力の限り尽くしてきた「老兵」の、自尊心と自負心を打ち砕かれた慙愧の思いが滲む。

 似たような悔しさを胸に秘めて、選挙民である年配者たちは「憤怒の1票」を投じたのではなかろうか、先の衆院山口2区補選で。本来は自民党支持者である60代、70代の過半までが、今回の補選では民主党候補に投票したとの各社の出口調査結果が報じられている。町村官房長官も、その敗因を認めはした。しかし、「(後期高齢者医療制度に対する)事前の説明が足りなかった」と、理由が本当に「説明不足」だけと思っているのなら、次の総選挙で自民党がまた惨敗するのは、もはや目に見えていよう。

 袖井孝子会長(お茶の水大名誉教授)ら有識者で作る「シニア社会学会」は、昨年まとめた提言の中で「老いる権利」の確立を説いている。「効率の尺度でシニア世代を測れば動きの速さや持久力が劣り、年をとった人はすべてアウトになる。(長寿時代は)効率とは異なる人間の観点が欠かせない。それが『老いる権利』である」と。

 「老兵は…」の名言には前段がある。「理想を放棄することにより人は老いる。信念を持てば若くなり、疑念を持てば老いる。自信を持てば若くなり、恐怖心を持てば老いる。希望を持てば若くなり、絶望を持てば老いる」。そのうえでの「老兵は死なず…」。

 山口補選の結果は、高齢者から「健やかに老いる希望」を奪い、残り少ない人生の行く末に「絶望」を抱かせるような、「敬老」どころか「軽老」と言うべき国の非情な施策に対する厳しい民意の表徴だったと、福田さんは銘すべきだ。

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