コラム


育てる  No.361
 関東以南の太平洋側では今週末が桜の花見の、ちょうど見頃になるのだろうか。

 山や田畑や穀物の神を「さ」と言い、その神座を「くら」と呼んだ――と諸説ある「桜」の語源の1つにあるように、桜の花見の始まりはもともと、その咲き具合から1年の作物の豊凶を占う農耕神事であり農民文化でもあった。

 いま全国に何百カ所とある「桜の名所」の多くが、少し大きな川の堤防にあるのはその名残りだ。なぜなら、土を盛っただけの堤防は時間が経つにつれて緩みやすく、放っておくと洪水時に決壊する危険がある。そこで桜を植えておけば、張った根が堤を崩れにくくするばかりでなく、春先、花見に集まった人々が堤防を踏み固めてくれるので強度が増す。堤防上に神社を建てた村が少なくないのも同じ理由で、そうした昔の人の知恵が各地の「桜堤」として残り、いま私たちの目を楽しませてくれているのだ。

 さて、そんな桜咲くこの季節、新入学・入社したフレッシュマンの、なぜか一見してそうと分かる初々しい姿を、街のそこかしこで見かけるのも気持ちよい。

 多くのマスコミが取り上げたのでご存知と思うが、今年の新入社員のタイプは「カーリング型」なのだそうだ。社会経済生産性本部が26日発表した。「カーリング」は2006年トリノ冬季五輪で日本の女子チームが健闘し有名になった、あの漬物石みたいな丸い石を氷上に滑らせて得点を競うウインター・スポーツ。

 今年の新入社員をその「カーリング型」と評したココロは何かといえば、「育成の方向を定め、そっと背中を押し、(石が滑って行く先の氷面を)ブラシでこすりつつ、周りは働きやすい環境作りに腐心する。しかし、少しでもブラシでこするのを辞めると、減速したり、止まってしまったりしかねない」からだとか。毎年上手に譬(たと)えるものだと感心する半面、なぜそこまで気を使い、面倒を見てやらねばならないのかと、とりわけ就職氷河期を戦い勝ち抜いてきた先輩社員は思うだろう。けれども――。

 「桜切るバカ、梅切らぬバカ」という言葉がある。枝の多い梅は、剪定して風通しをよくしてやらないと枯れるが、桜はとても繊細な木で、切り口から病源菌が入って腐りやすいから、むやみに切ってはならない――の教え。つまり「切る切らないは、相手を見て考えよ」という、人材教育、新入社員教育に通じる、実は示唆でもあるのだ。

 せっかくの若い苗木を、立派に育てられるか、枯らせてしまうか――諸兄しだいだ。

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