コラム


「不作為」の罪  No.359
 日曜日朝のTBS系列報道番組「サンデーモーニング」の、後半のコーナー「風をよむ」が、的確な問題提起と分析で勉強になるから、毎週チャンネルを合わせる。

 先週のテーマは「不作為の罪」。非加熱血液製剤の危険性を承知していながら回収措置を怠ったとして厚労省元課長が業務上過失致死罪に問われた薬害エイズ事件で、最高裁が被告の上告を棄却した判決を端緒に、番組はさまざまな「不作為の罪」を追っていた。薬害C型肝炎、アスベスト禍、ハンセン病対策、水俣病、さらに雪印乳業・集団食中毒事件、パロマ工業・欠陥品問題等々、同根の事件が近年相次いでいる。

 何かを「した」責任ではなく、すべきだった何かを「しなかった」責任を問われる「不作為」の罪。卑近な話、店員が間違えて釣り銭を多く渡したことに気付きながら、黙ってそのまま受け取って帰れば、それもまた「不作為」の詐欺罪に当たる。

 石原東京都知事が選挙公約に掲げて設立した「新銀行東京」の再建問題が紛糾している。都が出資した1000億円の大半が貸し倒れや赤字の累積で消え、いま400億円を追加融資せずに清算すれば、さらに1000億円を失う――と、そこまで深刻な状況に立ち至らせたのは「旧経営陣の責任」で、自身の責任は「墜落寸前の銀行を上昇させること」という石原さんの都議会での答弁は、聞き苦しいというより見苦しい。

 しかも「資産を4分の1に縮小し、業務粗利益を倍以上に高めることで、3年後に単年度黒字にする」という、素人目にも実現至難な「再建」案の、数字的根拠は示されていない。何もしないわけではないから「不作為」ではないが、ダメかも知れないと分かっていて犯す罪なら、法律では「未必の故意」との咎めを避けられない。

 先日、名古屋の大手現金前売り問屋が突然「廃業」の方針を明らかにした。「まさか」と、案内を受け取った取引先が驚いたのも無理はない。近年の業績こそ起伏が見られるものの、いまも「無借金経営」を続ける企業だったからだ。しかし――。

 年商100億円を超え高額所得法人の常連だった10余年前、トップはすでにこう話していた。「環境が大きく変化する中、現金前売り機能がいつまで必要とされるのか。将来を見据え、準備を怠ってはいけない」 関係先に一切迷惑をかけないという今回の廃業の有終は、そうした謙虚さと先見性と、対応策の周到さがあってのことだ。

 見て見ぬフリをしていないか――自身の「不作為」にも、私たちは厳しく向き合いたい。

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