2019年2月のレーダー今月のレーダーへ

守株の愚かさ No.902

2月にもなると、今年の干支のことも忘れてしまいがちだが、平成最後の干支は亥。「猪突猛進」「猪を見て矢を引く」…猪の諺を見ていたら「三兎を追う者は猪を得る」というのがあった。「二兎を追う者は一兎を得ず」、同時に二つのことをしようとすれば、両方とも成功しないということを諭した諺に対して、二兎ではなく三兎を追えば兎より大きい猪を捕らえることが出来るという意味らしいが、実際にはこんな諺はない。ローマの古い話をもとにある人が作ったものらしい。

二人の若者が狩りをしていた。一人が二羽の兎を追って両手で捕えようとしたが失敗。これを見たもう一人はこれまでの方法ではなく、罠で捕えようと考え、兎の習性を観察し罠を仕掛けた。早速一羽の兎を捕らえたが、用心深い兎は二羽、三羽と罠にかからない。そこで獲物は兎である必要はないと考え、罠の仕掛けに工夫を重ね、兎より大きい猪を捕まえることが出来たという話。

兎を二羽、三羽一度に捕まえる方法ばかり考えていたとしたら、罠は成功しなかっただろう。兎を捕まえるのは食料を得るためで、それなら三兎以上の獲物を捕まえればいいと発想を転換させ、猪を捕まえることに成功した。この話は、発想の転換、創意工夫の大切さを教えるものだ。

同じ兎が登場する狩りの話として中国の韓非子に「守株(しゅしゅ)」がある。農夫が畑仕事をしていたところ兎が走って来て切り株に頭をぶつけて死んだ。思わぬ拾いものに、あくる日も、またその次の日も畑仕事をせず、切り株に兎がぶつかるのを待った。しかしいつまで待っても兎は現れず、穫り入れもできなくなり、農夫は人々の笑いものになった。

この話は、時の為政者を戒めたもので、政治がうまくいったのはたまたま向こうから転がり込んできたものなのに、指導者は次の日も同じことがあると思っていると諭す。守株の寓話は企業のリーダーにもあてはまる。平成が終わろうとしている現在も、昭和の高度成長やバブルなどをいつまでも引きずり、昔のような幸運がまた訪れると、まだ守株の夢から覚めない人がいる。「兎が切り株にぶつかるなど二度とないのは頭では分かっているが、分かっていても、いざ決断する段になると昔のやり方に捉われてしまう」という経営者もいる。

創意工夫は大切だが、三兎を追って猪を得る幸運は何度も続かない。

「知ること」 No.903

米国では、2月最初の日曜日は感謝祭に次いで食料品が消費される日だそうだ。日本では節分の恵方巻で盛り上がっていたが、海の向こうでは、米国最大のスポーツイベント「スーパーボウル」の開催で湧いていた。スーパーボウルとはNFL(ナショナル・フットボールリーグ)の優勝決定戦のこと。日本ではあまり馴染みのないアメリカンフットボールだが、米国では人気のスポーツ。特にスーパーボウルが開催される2月第一日曜日は「スーパーボウル・サンデー」と呼ばれ、家族や仲間が集まりテレビ観戦して楽しむ祝日のような日。スーパーでも観戦用スナックがたくさん売り出される。

毎年全米最高の視聴率をマークし、1億人以上が視聴するというテレビ中継は、CMの波及効果も大きく広告業界にとっても一大イベントとなっている。広告料金も世界最高で、30秒枠でなんと525万ドル(約5億7600万円)とのことだ。スポンサーも視聴者の記憶に残るCMを作ろうと、著名な映画監督や有名俳優を起用するなど、様々に趣向を凝らしている。

これらはスポンサーの公式サイトや動画閲覧サイトで視聴可能だ。さっそくいくつかを見てみたが、スーパーボウルのCMは初めてというワシントンD.C.の新聞社「ワシントン・ポスト」のCMが心に残った。第2次世界大戦から現在に至る重大事件の画像からはじまり、取材中に命を落としたジャーナリストたちの姿が映しだされるというシンプルなものだが、そこに映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017年)でワシントン・ポスト紙の名物編集長を演じたトム・ハンクスのナレーションが入る。

「――隣人が危険にさらされているとき、国家に脅威が迫っているとき、事実を集める人がいます。その話を知らせるために、どんな犠牲を払っても。なぜなら、知ることが私たちに力を与え、何をするか決めるのを助け、私たちに自由を与え続けるのです(抜粋・要約)」―― そして、「Democracy Dies in Darkness」(民主主義は暗闇の中で死ぬ)という同紙のスローガンで終わる。危険な場所であろうと取材に行き、勇気を持って仕事を続ける記者やジャーナリストの存在がいかに重要で、それによって私たちが知ることができる事実がどれほど大切かを伝えてくれるメッセージだ。

報道の自由が危機に瀕しているいまだからこそ、知ることが自由を守るということを忘れてはなるまい。ぜひ映像でご覧になることをお勧めする。

シンプソンのパラドックス No.904

「世の中には3種類の嘘がある。嘘、大嘘、そして統計だ」という言葉がある。統計のあいまいさを皮肉ったものだ。

厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正調査問題。この調査は、賃金や労働時間、雇用の動向を把握するためのもので、従業員500人以上の事業所は全数が対象となっているのに、東京都では、約1400事業所のうち3分の1、約500事業所しか調査していなかった。その結果、この統計をもとに算定される雇用保険や労災保険などが過少に給付されていて、追加給付の対象者は、延べ1973万人、30万事業所で総額567億5000万円にのぼる。また、事務手続きやシステム改修に200億円程度かかることが明らかになり、追加給付に関する費用は総額約800億円に膨らむ事態となっている。

そもそも多くの統計では全数を調査せず、一部のサンプルを抽出して、全体像を表すことがほとんど。テレビの視聴率やメディアの世論調査もサンプル数はごくわずかである。「毎月勤労統計」も従業員5~499人の企業は全国の約3万3000事業所を抽出して行う調査だが、統計学上は正しいそうだ。

統計には「嘘」ではないが、マジックのような側面もある。米国の統計学者E.H.シンプソンが提示した「シンプソンのパラドックス」と呼ばれるものである。たとえば男女合わせて100人のA校、B校2つの学校の成績をみると、男子の平均点はA校が60点、B校は55点でA校が5点高い。女子の平均もA校75点、B校70点でA校が5点高い。では全体の平均点が高く優秀な学校はどちらと問われると、男女とも高いA校と即断しがちだが「これだけではどちらか分からない」というのが正解。

なぜか。A校は男子が70人、女子は30人とすると平均点を掛け合わせ(60点×70人+75点×30人=6450点)これを100人で割ると64.5点。一方、B校は男子30人、女子は70人とすると、同じく男女合わせた平均点の合計(55点×30人+70点×70人=6550点)を100人で割ると65.5点でB校が全体の平均点は1点高くなる。「集団を2つに分けた場合、ある仮説が成立しても全体では正反対の仮説が成立することもある」というのがシンプソンのパラドックス。

統計には「嘘」ではなくても危うさが潜んでいる。まして「嘘」で固められた統計であれば、国を危うくする。

こんまりの魔法 No.905

こまめに片づけているつもりなのに、気が付くと部屋がゴチャゴチャになってしまう。そんな悩みを抱えている人は多い。毎年11月22日の「いい夫婦の日」に行っているアンケート(明治安田生命2018年11月18日発表)では、夫から妻への不満の第1位が「整理整頓ができない」。妻から夫への不満の第3位が「整理整頓ができない」という結果だった。「整理整頓したい」という人が多いのは、雑誌やサイト、テレビでの整理整頓特集の多さをみても伺い知れる。

一向に部屋が片づかないのは、モノが多すぎるからということはわかっているが、なかなか捨てられないのだ。1年間使わなかったら捨てる、捨てるか迷ったらとりあえず保留して半年たって使わなかったら捨てるなど数々の整理ノウハウがあるなか、注目を集めているのがモノに「ときめき」を感じるかどうかで整理する方法だ。この方法を伝授している「こんまり」こと近藤麻理恵さんは、日本はもとより米国や欧米でも大人気の整理整頓アドバイザーだ。

ミリオンセラーとなっている著書『人生がときめく片づけの魔法』で、最初にどのような暮らしをしたいかをイメージしてから整理を始めるということを提唱している。部屋もモノも「自分がしあわせになるため」にあるもので、「モノを捨てるか見極めるときも、持っていて幸せかどうか、つまり、持っていて心がときめくかどうかを基準にすべきなのです」と説く。そして「片づけとはモノと向き合うことによって自分と対話する作業である」と。

神秘的で哲学的でもある彼女の片づけ方法は世界でも注目され、2015年「TIME」誌の「世界で最も影響のある100人」に選ばれた。著書『人生がときめく片づけの魔法』も米国で100万部を超えるベストセラーとなっており、今年1月には世界的な動画配信サービス、Netfrixで『KonMari~人生がときめく片づけの魔法~』というドキュメンタリー番組が始まった。

この番組は、こんまりが部屋の片づけや収納に様々な問題を抱えるアメリカの家庭を訪問し、実際に部屋を片づけ、同時に家族の関係も修復していくというもの。片づけで前向きになり、家族に幸せをもたらしてくれるところが共感を呼び、影響を受けた人も多いそうだ。

片づけが人生を見つめ直すきっかけになるのなら、まずははじめてみよう。