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大福 No.892

訪日外国人の増加が続いている。一時期のような爆買いは収まり、最近では日本の文化に触れる「モノ・コト消費」に移りつつあるが、その中で静かなブームになっているのが和菓子だという。人気商品のひとつに“餅菓子”があるが、その代表格といえば「大福」であろう。

大福は、元々は室町時代後期からある「鶉(うずら)餅」という塩味の餡を詰めた大きな餅が原形で、今のような甘い餡子が入ったものが広まったのは江戸時代になってからのこと。江戸・小石川に住んでいた女性が、餡に砂糖を加え、食べやすいように小さくしたのが始まりとされる。当初は腹持ちがいいので「大腹(だいふく)餅」という名前だったが、その後「大福餅」と呼ばれるようになり、その甘い味と縁起のいい名前から江戸でブームが起き、かの吉田松陰も大好物だったと言われている。

鶉餅をアレンジして誕生した大福だが、その後、さらに別の素材や新たなアイディアを組み合わせることで、新たなロングセラー商品が生まれた。その一つが「いちご大福」だ。発祥を巡っては諸説あり由来も定かではないが、昭和後期に和菓子店の店主が試行錯誤した末に完成させたといわれる。餡の中に生のイチゴの果実を入れた斬新な大福は、瑞々しく甘酸っぱい味が好まれ、発売されるとすぐに人気商品となった。

もう一つがロッテの「雪見だいふく」だ。“冬に売れるアイスクリーム”を目指し、開発を進める中で思い至ったのが日本人に古くから親しまれている餅、さらにはその餅を使った身近なお菓子である大福。これらをヒントに1981年に誕生した。それぞれ独特の工夫は施されているが、既存の商品「大福」をベースに、“餡”の部分を工夫したことで別商品としてヒットに結びつけることができたわけだ。

かつて、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、経済を成長させるのは「新結合」だと提唱した。新しい物事を生み出そうとする時、「革新」「一新」の意味で「イノベーション」という言葉が使われるが、突き詰めていくと、既存の商品同士を組み合わせたり、新たな発想を加えたりすることによって商品が生み出されていることが多い。

市場が成熟し、既存の自社製品だけでは成長が見込めない今の日本では、他とは違う革新的な商品・サービスを生み出すことばかりを考えがちだが、「大福」を参考に、過去にとらわれず自由な発想で「新結合」を考えてみてはどうだろうか。

健康寿命を延ばすには No.893

最近、よく聞くようになった「健康寿命」とは、継続的な医療、介護に依存しないで自立した生活ができる期間をいう。日本はすでに平均寿命では世界でトップクラスに入るが、超高齢化社会を迎えるにあたり、単に寿命を延ばすだけでなく、いかに心身ともに健康で生活できる期間を延ばすかが重要になってくる。平均寿命と健康寿命の差が短ければ、老後は豊かなものになるだろうし、この間の医療費や介護費も削減できる。

厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」(2018年3月)によると、2016年において、男性の健康寿命は72.14歳(平均寿命80.98歳)、女性の健康寿命は74.79歳(同87.14歳)、平均寿命と健康寿命の差は男性で8.84年、女性で12.35年だ。いつの間にか「人生100年時代」といわれるようになった今、健康寿命の平均が70代前半だということを知ると、複雑な気持ちになる。

それでは、健康寿命を延ばすにはどうすればよいのだろうか。これは多くの人の関心事で、先日のNHKスペシャル「AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン」では「健康寿命」(10月13日放送)を取り上げていた。この番組はNHKが独自に開発した人工知能「AIひろし」が日本が直面する課題を調査し、解決策を探るシリーズ。 健康寿命を延ばすヒントを探すため、北海道から沖縄に住む65歳以上、のべ41万人の生活習慣や行動の膨大なデータをAIに取り込み分析、その結果、健康要素と最も多く繋がっていたのは、「運動する」ではなく「本や雑誌を読む」だった。

番組では健康寿命が全国で男性1位、女性3位という山梨県に健康との関係を探りに向かった。そこで、健康寿命が長いにも関わらずスポーツの実施率は全国で最下位の山梨だが、人口に対する図書館の数は日本一だということがわかった。図書館を訪れるお年寄りたちに聞くと、バスで通ったり、館内で本を探しまわることが、いい運動になっているようだ。また、様々なジャンルの本を借りることで知的好奇心が刺激され、旅の本を見ることで過去の記憶が呼び覚まされ、記憶力アップに繋がっているとのこと。

なぜ読書が健康寿命を延ばすかを解明するのは難しそうだが、本や雑誌のなかにはまだ触れたことのない世界が広がっており、好奇心を呼び起こすきっかけになる。

何はともあれ、手っ取り早くできるのが読書だ。「AIひろし」の助言に従い、今度の休みは図書館で本を借り、秋の夜長を楽しんでみてはどうだろうか。

されど、見た目 No.894

「人を見かけで判断するな」とよく言われるが、こと商品については違うようだ。臨床心理学者でありながら大企業にマーケティング戦略のアドバイスをしていたルイス・チェスキン(米国)が1990年代に行った研究によると、消費者には、製品の外観やパッケージに対して抱いていた印象・感覚を、製品そのものの評価に知らず知らずのうちに転移させる「感覚転移」と呼ばれる行動があるそうだ。簡単にいえば、パッケージによって商品を判断する傾向があるということだろうか。

これを実証するように、パッケージデザインをリニューアルしたことで売上げを大きく伸ばした商品も多い。東ハトのスナック菓子「キャラメルコーン」、明治の板チョコ「THE Chocolate」、昭和産業の食用油「オレインリッチ」、三和酒類の焼酎「いいちこ」などだ。出版業界でも、過去に集英社文庫が太宰治の「人間失格」の装丁を『DEATH NOTE』の作画を担当する小畑健氏のイラストに変更したところ(2007年6月出版)、古典にも関わらず1カ月半で7万5千部の大ヒットとなった。

このヒットにあやかろうとしたのか、最近では色々な文庫でアニメ風の表紙が目につくようになってきた。児童書のコーナーをのぞいてみると、漫画本と間違えそうな文庫が並んでいる。巷でよく見られるアニメ風のイラストを「萌え絵」と呼ぶそうだが、萌え絵を使った絵本や児童書を評して、ネット上では「子供に悪影響を与える」「児童書の表紙にふさわしくない」などの否定的意見が噴出し「萌え絵論争」にまで発展している。

名作童話をアニメ風の絵柄にした「せかいめいさくアニメえほん」を出版した河出書房新社には「なぜ萌え絵にしたのか」との問い合わせが殺到。先日、ツイッターの公式アカウントで「作家さんたちに萌え絵を描いてくださいとお願いしたものではなく子ども自身が飛びつく絵を、と発注しただけで、なぜ萌え絵にしたのかと質問され困惑しています」(要約)と対応に苦慮する様子を説明するに至った。

素朴なイラストの児童書を読んで育ったおとなは、アニメのようなイラストに違和感を覚え想像力が湧かなくなるのではと心配してしまうが、子供たちが表紙に惹かれて本を手に取り、それをきっかけに読書のおもしろさを知ることになれば、それも良いのではないか。なんでもかんでも萌え絵にしてしまう風潮に納得がいかないまま、そう思う。

見た目で判断したとしても、決して見かけ倒しではないのだから。

ダイナミック・プライシング No.895

あるビデオ・CDレンタル店が、今まで貸し出していたかなりの量の音楽CDを販売し始めた。価格は一律1000円だが、その横に「毎週100円ずつ値下げします」との張り紙がある。1000円の商品が9週後には100円だ。すべて中古だが安ければ買ってもいいと思うCDがいくつか見つかった。どうせなら少しでも安くなってから買いたい。しかし、それまでに誰かに買われてしまうかも?という思いが交差する。ワゴンを見つめる人たちの思いもきっと同じだろう。

最初はほとんど動きがなかったが、7週目の300円あたりからワゴンに隙間が出始めた。あと2週間待てば100円で買えるが、どうしようかと迷う。そして最終週、ワゴンはかなりの空きができていて、欲しいCDは売れてしまっていた。買う側がどうしても欲しいものは高く買うしかなく、その時期の見極めが大事だということを思い知った。

同じ商品なら価格は変わらないと思いがちではあるが、世の中には同一商品でも価格が異なることはしばしばある。季節商品のバーゲンやスーパーの閉店間際のセールなどはその最たるものだ。わずかの日数やほんの少しの時間差で価格が変わってしまうのを経験した方も多いだろう。

モノの値決めは原価からの積み上げで算出するものもあれば、消費者の購買心理、あるいは地域性や競合店などに対応して決められ、経営者や現場担当者の経験や勘に基づくものも少なくない。これに対して「ダイナミック・プライシング」という経済手法がある。直訳すると動的な価格変動といい需給と供給の状況に応じて価格を上げ下げすることで、変動型料金、価格変動設定などとも呼ばれる。例えば、航空運賃や宿泊代、ツアー料金などに広く活用されており、ゴールデンウィークやお盆、年末年始の繁忙期には上記の価格が跳ね上がるのは周知のことである。

最近では、ダイナミック・プライシングは人工知能(AI)を活用し始めているそうだ。販売実績など膨大なデータをAIに学ばせ、季節や時間などでの最適な価格をより高い精度で割り出すという、いわば消費者の動向をより詳しく分析した上で、価格設定するものといえる。消費税の増税となれば、これまで以上に消費者の価格意識は強まる。消費動向、消費者情報を分析しての価格設定は、これからの経営の重要なテーマであり、課題となってくる。