2015年8月のレーダー今週のレーダーへ

語源No.732

「この扉、きちんと閉まらないの?」「閉め方にコツがあるのさ」などと言う時の「コツ」の語源は、案外知られていないが「骨」である。「枕草子」にもその用法が残る。

骨は身体の中心であり基礎。そこから、物事を成す際の奥義や要点のことを「骨(こつ)」と言うようになった。だから例えば「○○上達への骨」などと漢字で書いてもよいのだが、日本人の91.1%は「コツ」とカタカナで書く(国立国語研究所の調べ)。「骨(ほね)」と誤読されるのが嫌なのだろう。

意外な語源が少なくない。「何かイライラする」の「イライラ」は、漢字では「苛々」で、その「苛」は草木のトゲや、魚の背びれなどのトゲのことだ。トゲに刺されると不愉快な気分になるから、そのまま「イライラ」になった。

すでに死語化しつつあるが、見ていてバカバカしいことを「片腹痛い」と表現する際の「片腹」を、脇腹のことと思っている人が多いが、語源は「傍(かたわ)ら」である。「傍(そば)で見ているとおかしくて仕方がない」の意味で、やはり「枕草子」に載る。

何かに怖気づく様子の「ビビる」という言葉も、比較的新しい若者言葉の1つと思われがちだが、語源は平安時代に遡る。武士の鎧と鎧が触れ合う時の「ビンビン」という響きを、「びびる音」と呼んだことに始まる。「富士川の合戦」(1180年)で、水鳥が一斉に飛び立った羽音を源氏軍が大挙して攻めてくる「びびる音」と勘違いした平氏軍が、文字通りビビって、戦いを放棄し一斉に逃げ出した話は歴史の授業でご存知だろう。

戦争がらみでは、感情や本音をむき出しにすることを「露骨」と言うが、中国語をそのまま使っているその語源は、文字通り「戦場に骨を露わに放置する」ことだ。なるほど人間同士が殺し合う戦争では、感情をオブラートに包む繊細さは、実際問題無用になってしまうのかも知れない。 さて、昨日は8月6日。NHKが去る6月、広島市と長崎市、全国の男女各1000人に「広島に原爆が投下された日」を聞いたところ、「昭和20年8月6日」と正しく答えたのは広島で69%、長崎で50%、全国では30%止まり。長崎に原爆が落とされた「昭和20年8月9日」の正解は広島で54%、長崎で59%、全国では26%にとどまった。

そこまで平和ボケしてしまった日本人。安保関連法案改正をめぐる現在の論争が、せめて一石を投じる意味を果たしてくれることを願うばかりだ。

スイカの種No.733

盆休みを終えたばかりの諸兄はこの夏、冷えたスイカをもう何切れ口にされただろうか。種をペッペッと吐き出しながら。

「スイカの種を食べると盲腸(虫垂炎)になる」という話は、しかし根拠がないそうだ。トルコの学者が2000件の手術例を調べた結果、虫垂から植物の残留物が見つかったのは8例(0.4%)、種に至っては1例(0.05%)だけだったとネットに載る。どうやら昔、虫垂炎を手術したヨーロッパの医師が、壊死して縮んでしまった虫垂をブドウの種と見間違えたのが、いつの間にかスイカの種にすり替わって広まったらしい。

同様に、子供の頃に大人に言われて信じ込んだ実は嘘が、いくつかある。

「夜に爪を切ると親の死に目に会えない」というタブーを、親不孝者の筆者は幾度か破ったことがあると白状するが、しかし幸いにも両親とも枕元で見送ることができた。では、なぜそんな言い伝えが生まれたのか?

江戸時代、夜間の屋内照明は、武家ならロウソク、庶民は菜種油や鯨油の行灯。いずれにせよ部屋の中はずいぶん薄暗かった。そんな見にくい中で爪を切ると、深爪したりケガしかねないから、やめたほうがよい、というのが裏に込められた本旨だ。

「雷が鳴ったらヘソを隠せ」という言い伝えも、教育的な意味合いに因る。2つある理由の第1は、両手でヘソを隠そうとすると姿勢が前屈みになり、頭の位置が低くなる。だから、より高いところに落ちる雷を避ける確率が、少しでも低くなること。第2は、雷が鳴ると雨が降り、気温が急に下がる。そこで、ヘソを盗られないよう腹周りを覆えば、身体を冷えから守ることができる。それが本来の目的というわけだ。

ただ、古来の言い伝えの全部に、ちゃんとした理由・理屈があったわけではない。

「食べ終わってすぐ横になると牛になる」とは、いまでも親が子を叱る常套句だが、いまだかつてそんな衝撃的変化を目撃した者は誰1人としていないばかりか、「医学的には食後しばらくは横になっていたほうがよい」と専門家は勧める。食後すぐ身体を動かすと、血液が筋肉に回って胃腸の血行が悪くなり、消化能力が低下するからだ。

だから「親が死んでも食(じき)休み」という諺も、実は昔からあった。「どんなに忙しくても食後は休みなさい」と。しかし前者ほど広まっていないのは、たぶん親の都合だ。 そう、親なんて結構、身勝手な嘘つきだと、自分が親になってから気が付く。

秋冷迫る候No.734

4-6月期のGDP(実質国内総生産)速報値が、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.4%減、年率換算で1.6%減になった ―― と内閣府は先週17日、発表した。昨年7-9月期以来3四半期ぶりのマイナス成長である。

GDPの過半を占める個人消費が実質0.8%減と、4四半期ぶりに落ち込んだのをはじめ、▽原油安・円安の恩恵を受けているはずの企業が、しかし賃上げにはさほど積極的に取り組んでいない ▽生活必需品の食品や生鮮食品が相次いで値上がりしている ▽6月の長雨・低温の影響でエアコンなどの季節家電や衣料品の販売が鈍った ▽4月からの増税で軽自動車販売が落ち込んだ ―― などが要因になった。

甘利経済財政・再生大臣はこの結果に対し、「企業経営者には、政策効果で上げることができた収益を、賃上げや、自社の競争力向上につないでいく意識を持ってもらいたい」と経済界に注文を付ける一方、「しかし7-9月期は、猛暑でエアコン需要が伸びたことなどから、回復の見込みは十分にある」と楽観的な見通しを口にした。 エコノミストの岩下真理氏(SMBCフレンド証券チーフ)も「夏季ボーナスの支給増などによる所得改善で、7-9月期GDPは持ち直すのではないか」(17日付ロイター)と短期的には期待する半面、「昨年4月の消費増税以降、低所得層を中心とする節約志向の広がりや、生活必需品の物価上昇を考慮すると、個人消費の弱さを、大企業主体の賃上げだけで補うのは難しい」と指摘。さらに「中国を主体とするアジア諸国の経済減速は大きな不安要素だ」としている。

先週来の世界的な株安は、実際に岩下氏の不安を反映する動きといえよう。東京株式市場では25日の日経平均株価(225種)終値が6営業日連続で下落して1万7806円と、今年2月以来約半年ぶりに1万8000円を割り込んだ。前日の下落を受けた午前中は、割安感が出た銘柄を中心に買い戻す動きもみられたものの、午後には再び下げ足を速めるなど、1日の変動幅が1000円を超す乱高下を展開した。

このところの安倍内閣は、安保関連法案の成立に心血を注ぐあまり、経済政策が疎かになっている印象を否めない。あれほど力を込めた「アベノミクス」も、すでに新鮮でエネルギッシュな魅力を失いつつある。このままでは私たちの暮らしが、秋冷の肌寒さを、季節に先駆けてまず実感することになりはしないかと、それが気がかりだ。