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集団的自衛権、容認へ No.677

政府は1日夕刻に開いた臨時閣議で、集団的自衛権を限定的に行使できるよう、従来の憲法解釈を変更することを決定した。 ▽朝日新聞「法治国家としてとるべき憲法改正の手続きを省き、結論ありきの内輪の論議で押し切った過程は、目を疑うばかりだ。憲法の基本原理の一つである平和主義の根幹を、一握りの政治家だけで曲げてしまっていいはずがない。議論の主舞台は、国会に移る。この政権の暴挙を、跳ね返すことができるかどうか」

▽産経新聞「国の守りが、ようやくあるべき国家の姿に近づいたといえよう。長年政権を担いながら、自民党がやり残してきた懸案を解決した。その意義は極めて大きい。行使容認を政権の重要課題と位置付け、大きく前進させた手腕を高く評価したい。政治家も国民も共に考え、日本がより主体性を持って判断すべき時代を迎えた」

▽中日新聞(東京新聞)「集団的自衛権の行使容認は、海外での武力行使を禁じた憲法九条を破壊するに等しい。憲政史上に汚点を残す暴挙だ。安保政策の見直しは、自衛隊の軍事的役割と活動領域の拡大につながっている。その先にあるのは、自衛隊の『国軍』化であり、違憲とされてきた『海外での武力行使』の拡大だろう」

▽読売新聞「米国など国際社会との連携を強化し、日本の平和と安全をより確かなものにするうえで、歴史的な意義があろう。過度に抑制的だった従来の憲法解釈を、より適正化したと言えよう。『戦争への道を開く』といった左翼・リベラル勢力による情緒的な扇動も見当違いだ」

マスコミだけでなく街角インタビューに応じる国民も、賛否が大きく分かれる。

ただ、諸兄は、同じ7月1日から、AKB48のアイドルを「メッセンジャー」とやらに仕立てたこんなテレビCMが流され始めたのを、もうご覧になったろうか。

「そこには、大地や、海や、空のように、果てしない夢が広がっています」「さあ、あなたの可能性へ」「ここでしかできない仕事があります」といったナレーションや文字が続いた後、このひと言でCMは終わる。「平和を仕事にする 陸海空 自衛官募集」。

兵力増強に通じるCMを、いまこのタイミングで流すことを防衛省が発表したのはたった4日前の6月27日。当然知っていたはずのそれをもまた“容認”した安倍政権。両者の空気の読めなさか、それとも、呆れるほどの神経の図太さに、不安を禁じ得ない。

「ジャーン!」 No.678

マイクを握れば演歌専門の友人A氏には、しかしただ1曲だけメロディを諳んじられるクラシック音楽があるという。ワーグナー作曲「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲だ。大学時代、寮で同室の新入生K君がオーケストラ部に入部した。初めてのコンサートでシンバルを担当することになったK君は、約10分間の演奏の終盤に2回だけ鳴らすシンバルのタイミングを徹底的に体に覚え込ませるため、主旋律を、繰り返し繰り返し口ずさんでいた。A氏はそれを何日も毎夜、傍で聴いていたからだ。

そして本番当日。演奏が始まった。ステージ後方最上段の椅子に緊張した面持ちで座っていたK君は、やがて立ち上がり、シンバルを構えると、指揮者が振り下ろしたタクトを合図に、「ジャ~ン!」。その時会場に響き渡ったシンバルの輝かしい音色と、K君の雄姿と、それらを目の当たりにした感動を、A氏はいまでも忘れないという。

シンバルなんて、叩けば音が出る――と思ったら大間違い。クラシックで主に使う「合せシンバル」は、2枚のシンバルをただ真横から打ち合わせただけでは、「パフッ」としか鳴らない。間に空気を挟み込んでしまうからだ。第一、重さ4㎏あるシンバルを、常に同じ音色で響かせるには「毎日千発の練習が必要」とプロ奏者は言う。しかもシンバルは曲のクライマックスに使われることが多いため、万一失敗すると、演奏全体を台無しにしてしまう。奏者が大変なストレスを抱えるパートなのだ。

ドボルザークの交響曲「新世界」でのシンバルは、約40分間の曲中、第4章でのたった1度しか出番がないことで知られる。それもクライマックスでの強打の「ジャ~ン!」ではなく、気付かない人がいても不思議ではない程度の「シャン!」。

だから、待機中に居眠りしたり考え事をしていて、シンバルを叩くべき唯一のタイミングを逸し、指揮者や楽団員から大顰蹙を買った――という話がネットには複数載る。それらが実話だと保証する材料を筆者は確認できなかったが、ただ1975(昭和50)年、テレビ「東芝日曜劇場」で、10年ぶりに「新世界」の演奏に参加することになった元楽団員の地方公務員が、緊張のあまりやはりシンバルを鳴らし損ねるという、倉本聰脚本「ああ!新世界」をご覧になった年配世代は、もしかするといらっしゃるのではないか。

シンバルの「ジャーン!」は、傍目で見るより大変な仕事――。私たちも、身を置く楽団=組織の中で、「ここ一発!」の重要な役割を担う者がいることを心していたい。

「ビター」は苦手? No.679

先日のウィンブルドン選手権男子シングルス。優勝したノバク・ジョコビッチは、センターコートの芝を口に含んで、言った。「今まで食べた物の中でも絶品だ」。凡人のわが身ではおよそ想像もつかない、頂に上り詰めた者だけが知り得る味であろう。

味には「甘味・塩味・酸味・苦味・旨味」の5つがある。「甘味」は糖、「塩味」はミネラル、「旨味」はタンパク質といった、人体に不可欠な栄養素の存在を知らせるシグナルであり、「酸味」は腐敗の、「苦味」は食べてはいけない有害物のシグナルとして機能している。そして、この「苦味」こそ、人類が進化する過程で磨いてきた味覚センサーであり、毒を避けることによってわれわれはこれまで生き延びてこられたのだ。

九州大学大学院の都甲潔教授は味をテーマにしたテレビ番組で、「楽しい雰囲気の中でコーヒーやビールなどの苦い物を飲むと、<楽しい>という情報がインプットされてハッピーな気分になり、脳内快感物質が出てきて快感を追い求め、苦い物まで好きになってしまった。これが僕らの今です」と語っていた。苦味は食生活を豊かにするという点でも重要な要素であり、人間は長い食経験で苦い食品を楽しむ習慣を培ってきた。

その「苦味」が、近頃は敬遠されがちだという。たしかにパンケーキなどスイーツ店に並ぶ人々を見たり、スーパーでは甘口のカレールーが売れ、居酒屋では甘口のカクテルの注文が多いと聞けば、世の中は完全に「甘味」にベクトルが向いている気がする。

こうした流れに危機感を抱いているのが、フレンチシェフの三國清三氏だ。小学生を対象に味覚の授業を行なっている三國氏は、著書「味覚を磨く」でこう書いている。

「昔の人は、さんまの身と内臓をあわせて食べさせたり、山菜や川魚を食べさせて、子供に苦味を教えました。子供は苦いものは嫌いですし、なかなか自分からは食べませんから、苦味を味わう能力はしばらくは役に立ちません。ただ、一度教え込まれたことで、舌の中で準備ができる。それが非常に大事なんです。その準備さえできていれば、やがて大人になって人生の屈辱と挫折を味わったあとに、あんなに嫌いだった苦味を、ああ、おいしいと感じられるようになる。その準備がないと、いつまでたっても苦味には反発するだけで、大人としても幼稚なまま年を取っていくことになります」

幼稚なまま年を取る――。問い詰める記者団の前で号泣する姿を、国内のみならず海外にまで晒した元兵庫県議。「苦味」は少々苦手だったとお見受けする。

キラキラ四股名 No.680

膃肭臍(おっとせい)市作・電気灯光之助・自動車早太郎・牛若丸飛之助・浦島太郎・豊年万作・文明開化・突撃進・馬鹿の勇介・ヒーロー市松・鬼の臍常吉・軽気球友吉 ―― 等々、挙げればキリがない。実在した大相撲力士の、珍しい四股名である。

四股名の命名に厳密な規則はない。すでに同じ四股名の現役力士が居る場合や、現役年寄や一代名跡は、規則はないものの使え(使わ)ないが、それ以外は文字や字数の制限もなく、どう名乗ろうと、途中で改名しようと自由。中には1970(昭和45)年に中学3年生で井筒部屋に入門した星岩涛祐二のように野口→開聞嶽→星兜→薩摩冨士→薩摩富士→星薩摩→大岩涛→星岩涛→星甲→星岩涛と10回も改名した力士もいる。

7月25日に十三日目を迎えた大相撲名古屋場所では、元幕内・北桜が率いる式秀部屋には「ユニークな四股名の力士が多い」と話題になった。幕下・千昇秀貴や三段目・太牙虎五郎あたりは普通だが、やはり三段目にはキラキラネーム風の爆羅騎源氣(ばらきげんき)、序二段には、「ももち」の愛称で知られるアイドル嗣永桃子の大ファンだから付けられた桃智桜(ももちざくら)五郎丸や、軽量を生かし土俵上で3分間思い切り暴れ回ってほしいとの願いが込められた宇瑠虎(うるとら)太郎、さらに場所前の新弟子検査に合格したものの、前相撲で年下の対戦相手に1秒で吹き飛ばされた17歳の少年には育盛(そだちざかり)の四股名が付けられている。

しかし、これらは単なる話題づくりや「ウケねらい」のパフォーマンスではない。「明るく、楽しく、元気良く」を部屋のモットーに掲げる式秀親方が話している。

「キラキラネームを付けるのが好きなわけじゃない。大切なのは本人がやる気になること。お客さんに応援してもらうこと。本人の励みになる、頑張るための四股名。宇瑠虎だって桃智桜だって、元々大人しかったんですが、ずいぶん変わりましたよ」

「引退してから、人間の脳について勉強した。人はストレスを感じるとネガティブなホルモンを出し、免疫力が低下して、ケガや病気につながる。褒められると喜びのホルモンを出して頑張れる。普段から力士たちが喜ぶホルモンを出せるような環境を作れば、相撲の結果も良くなるんじゃないかと」 伝統と規律が重んじられる角界に、新風を吹き込んでいることは間違いなかろう。ただし――。

キラキラ四股名は、親方というより部屋の女将さん・向めぐみさんのアイディア、と誰かがネットでバラしている。結局、頼りになるのは内助の功ですかね、ご同輩。