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4月入りNo.617

「電話口 『何様ですか?』と 聞く新人」(吟華) ―― 過日の第一生命保険「サラリーマン川柳2013」100選に選ばれた中の一句である。「まさかそこまで…」と思うのは見方が甘いかも知れない。取引先から部長への電話を受けた新入社員が「○○部長はおりません」と応対したので、「そういう場合、部長は身内なので『○○はおりません』と呼び捨てにしなさい」と教えたら、次に電話を取り継いだ際、部長に向かって「○○~、××物産さんから電話です」と叫んだ、とネットで読んだ話も、実際なくはなさそうだ。

さて、4月入り。職場に新人を迎える。その指導育成が大変だ。まして近頃は「パワハラ」が問題視される時勢。そこで、部下への接し方に悩む管理職を対象にした「叱り方検定」が人気を呼んでいるとか。関西の某NPO法人が先月開いたセミナーには受講者が予想以上に集まり、開催を全国に広げる予定だそうな。

「叱る」というのはいわば、未熟な者を育てるための“お手伝い”。効果的に叱れば、叱られた相手は失敗を学びの種に変え、大きく成長することができる。半面、叱られた相手側の受け止め方は千差万別で、萎縮したり意気消沈したり立ち直るまでに時間が掛かる者もいるから、叱るのは、思うほど容易ではない。

その点、「叱って育てる」より「褒めて育てる」ほうが多少楽かも知れない。こちらにも「ほめる達人検定」セミナーとやらがあるらしい。しかも、「ほめて育てる」場合は、褒められる側ばかりでなく、褒める側も自分の観察力や洞察力、相手の話を聞く力などが高まるから一挙両得なのだと、セミナー主催者はその効果をPRする。

そこで「上手な褒め方」の極意は、①道具の整理を黙々とするなど目立ちにくい美点や長所を褒める ②言動のどこがよかったかを具体的に褒める ③成果につながらなくても過程での努力を褒める ④「いまのは良かった」とタイミングを逃さず褒める ⑤「Aさんが君を褒めていたよ」と第三者の評価を借りて褒める――等だそうだ。

そこで新人諸君へ。先輩社員に“褒め上手”のポイントがあるなら、諸君には“褒められ上手”のテクニックもある。それは、叱られた際、反論したい理由はあっても、①まずは相手の言葉を受け止め、②相手の主張に共感し、そして何より③素直に謝ることだ、と某コンサルタント氏。そう、何よりも大事なのは「素直さ」。4月は、新人たちを見た先輩社員が、最近の自身を素直に省み、初心を蘇らせる季節でもあるのだ。

チューリップNo.618

さいた さいた チューリップの はなが ―― 色とりどりのチューリップの花が、一気に、華やかに、花壇を春色に彩り始めた。

「チューリップ」と聞くと「オランダ」を連想するが、原産国はオスマン帝国時代のトルコ。同国に赴任したオーストリアの大使ブスベックがその美しさに魅せられて球根を持ち帰り、それがオランダのライデン大学付属植物園に勤める友人に渡って栽培されたのが、やがて世界中に広まったと伝わる。その折、「この帽子のような形の花の名は?」と訊かれた通訳が、勘違いして「チュリパム(=ターバン)です」と答えた返事がそのまま花の名として定着したのだとか。よくある「名前の由来」パターンではある。

そのオランダから、日本へは1863(文久3)年に持ち込まれた。ただ、当初はあまり広がらなかった。当時の品種は日本の気候風土に適していなかったからだ。それが明治半ばを過ぎてから、新潟や富山など日本海側なら、①冬期の地中温度・湿度が、積雪で適度に保たれる ②チューリップ生育に大事な良質の水が豊富 ③扇状地なので水はけが良い等々、条件が向いていることが分かり、先駆の農家が米づくりの裏作にチューリップ栽培を始めた。その結果、いま日本のチューリップ球根生産は3775万球(2011年)とオランダに次ぐ世界2位。その99%を富山(59%)、新潟(40%)両県で占める。

ならんだ ならんだ あか しろ きいろ/どのはな みても きれいだな ―― と続く童謡「チューリップ」の作詞は近藤宮子。文部省の唱歌づくりに関与した父に頼まれ、「こいのぼり」「おうま」など一緒に作歌した中の1つだった。しかし、採用されて文部省から1932(昭和7)年に発表された際は「作詞不詳」とされた。当時は同様の扱いを受ける唱歌が多く、彼女も「歌い継がれるなら、それで結構」と了承していたという。

しかし、作者不詳の歌の著作料は日本教育音楽協会が受け取っていた経緯から、いずれ著作権が切れて収入が減るのを心配した協会が1981年、作詞者として同協会長を登録。これを知った宮子が「嘘はいけない」と反発し1983(昭和58)年に「著作権確認」を求めて提訴。1993(平成5)年3月に宮子が全面勝訴した。物証が乏しかったにもかかわらず裁判官が心証で下した珍しい裁判とされ、「チューリップ裁判」と呼ばれる。

「『どの花 見ても…』は『一人一人には必ず良いところがある』との思いを込めた」と話していた彼女が92歳で亡くなったのは1999(平成11)年の春、4月8日だった。

高齢者の雇用延長No.619

従業員を65歳まで雇うことを企業に義務付けた「改正高年齢者雇用安定法」が今月1日施行された。「少子高齢化で働く若者が減少しており、高齢者の活用は不可欠。60歳以上の人の知識や経験を生かし、日本経済の活性化を目指す」(東京新聞1日付)という法の趣旨はいわば“建て前”。実体は、厚生年金の支給年齢が段階的に引き上げられるのに伴い、定年後に年金も賃金収入もない空白の期間が生じるのを避けるのが目的であることは多くの国民が知っている。

ともあれ、国連の世界保健機構は「高齢者」を「65歳以上」と定義する。しかし日本の高齢者雇用安定法で定める「高齢者」は「55歳以上」。社会通念では65歳をさえ「高齢者」とは呼びづらく、まして年金も支給されなくなる世代なのに、その働き方を「高齢者」と線引きしてしまうところにそもそも無理があると言えば言えよう。

今回の法改正で、企業は希望する者全員を、①定年の延長 ②定年の廃止 ③継続雇用制度の導入のいずれかの方法で、雇用を確保する措置を整備しなければならない。

では、そうして高齢者の雇用義務を課せられた企業は、彼らをどう活かしていけばよいのか。全国中小企業団体中央会は、例えば以下のような方途を提案する。

①高齢者を「技能伝承の担い手」ととらえ、新人や未熟者と組んだOJTで社内の技能水準を高める ②働き盛りの従業員でなく高齢者に任せられる仕事はないか社内業務を見直す ③在宅勤務制度を導入し、出勤と在宅を組み合わせたシフト勤務を組む ④フレックス勤務や短時間勤務など高齢者の生活パターンに合わせた勤務形態にする ⑤高齢者同士がペアを組み、早番・遅番、週の前後半などでジョブシェアリングする ⑥高齢者には負担の通勤を避けるため内職の発注を行う――と。

ただ、高齢者問題に詳しい学習院大学・今野浩一郎教授の指摘がなかなか厳しい。

「日本におけるこれまでの高齢者雇用は、定年後は給料を一律に引き下げ、彼らの働きにもさほど期待していないような『福祉的就労』が多かった。高齢者が少数の間はまだそれでもよかったが、65歳までの雇用継続が前提になると、それでは会社は持たないし、本人のモチベーションも期待できない」「優秀な人材には、難しい仕事を配分し、報酬を多く払う――そうした“三位一体”を図ることの大事さは、高齢者に対しても同じ。そう受け止めて真剣に向き合わなければならない時期を迎えたといえる」

「今でしょ!」先生の教えNo.620

ネットで見たパロディに、思わず声を出して笑ってしまった。「鍵、どこへ置いたっけ?」「居間でしょ!」 元ネタは予備校・東進ハイスクールの3年前のテレビCM。その中で「現代文」担当講師の林修さんが放ったひと言「いつやるか? 今でしょ!」を、トヨタ自動車が今年初めのキャンペーンCMで「いつ買うの? 今でしょ!」と言い替えて使ったのがブレイクした。早くも「今年の流行語大賞の候補」だそうな。

「発声、表情、身振り手振り、目線の置き方など、すべてがプロ芸人のように周到に作り込まれている」(3月17日付Yahooニュース)と雑誌編集者・ラリー遠田氏は絶賛するが、本人によれば、この言葉を口にしたのは2009年の講義中に一度だけ。とすれば、脱帽すべきはご本人よりむしろ、彼のひと言に着目して起用したCMプロデューサーの、さすがにプロならではの鋭い感性・感覚に対してだろう。

ともあれ、「今でしょ!」で一躍脚光を浴びている林氏の経歴のユニークさを、多くのマスコミが取り上げている。東大法学部を卒業後、当時の長銀に入行したが、希望部署に配属されなかったため5カ月で退職。その後は家庭教師や、友人と投資顧問会社を興したものの株で大損し、競馬などで生活したこともあるそうだ。 東進の講師になった当初の担当は、自ら希望した得意科目の「数学」。しかしそれをすぐ現在の「現代文」に、再び申し出て変更した。予備校の講師は生徒に人気がないとあっさりクビになる厳しい世界。「数学」担当にはすでに優秀な講師が居て、彼は勝てる確信を持てなかったからだ。そこに彼の、昔から変わらぬ人生観がある。

著書「いつやるか? 今でしょ!」で林氏は、孫子の兵法「形篇」に載る「古のいわゆる善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり」を引用し、こう書いている。「大した努力をしなくても勝てる場所で、努力をしなさい」―― それが林氏の人生訓なのだ。

「今の仕事がやりたい仕事だったか、と言えば即座に『NO!』と答えます。しかし、そこで誰よりも努力してきたことにも、自信があります。好きなことは趣味で楽しめばいい、そう考えています。景気のよい時代と違って、不況が長く続く時代では、『勝ち易き』場所以外では生きづらくなっているからです」 そして、英国劇作家ジェームズ・バリーの次の言葉を掲げる。「幸福の秘訣は、自分がやりたいことをするのではなく、自分がやるべきことを好きになることだ」 5月病に罹りかけている新人たちに贈りたい。