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レッドリストNo.587

環境省は先月下旬、絶滅の恐れがある日本の野生生物を調べた第4次「レッドリスト」を公表した。それによると「ニホンカワウソ」など8種の生物の「絶滅」が新たに確認された。また「絶滅危惧種」は前回の平成20年調査より419種増え、3430種に達した。原因は、生息に適した環境の減少や、外来生物による捕食、また飼育目的による乱獲など。「絶滅危惧種」の中に今回「ハマグリ」も加わった。私たちがいま口にしている「ハマグリ」のほとんどが中国や韓国からの輸入物と聞くと、食欲がいささか鈍る気がするのは微妙な味の違いのせいか、それとも時節柄のせ……いや、止めておこう。

環境の変化や外来勢力の脅威によって生態系が変わり、絶滅の危機に瀕することがあるのは自然界ばかりではない。産業界の職場にも「レッドリスト」は存在しそうだ。たとえば十数年前、「絶滅危惧種」に挙げられたのは「マドギワゾク(窓際族)」「ハタラキバチ(働き蜂)」「ショクバノハナ(職場の花)」の3種。その後、リストラの進行や職場のゆとり喪失によって「マドギワゾク」「ショクバノハナ」はすでに絶滅。忠誠心溢れる「ハタラキバチ」も、生き残りづらい絶滅危惧種的環境下に置かれている。

デフレ不況が長期化し、政治の混乱もあって有効な手が打たれないまま低迷が続く日本経済。ではこれからどういう“種族”が生き残れるのか?

人事コンサルタント・深田和範氏が雑誌「プレジデント」誌上で語る指摘はなかなかシビアだ。「企業は一層の合理化を求められるが、生産や営業の現場はすでにリストラが一巡し、非正規雇用をこれ以上増やせない。高齢者層を肩叩きしたくても、団塊世代は定年で逃げ切った。となると、残っているのは最後の聖域であるホワイトカラーの中堅・若手だけだ。安全地帯がなくなったいま、ホワイトカラーは、出世できるかどうか以前に、企業内で生き残れるかどうかを考えなくてはならない」 そこで深田氏が「これからの時代に生き残れるホワイトカラー」の条件に挙げたのは「超世渡り上手タイプ」。つまり「出世し過ぎず、しかし実力はそこそこあって、手抜きもしない。ポジションをキープできるだけの成果を出す人」であると。

「進化論」のダーウィンは、こう言ったとされる。「この世に生き残る生き物は、最も強い者か? そうではない。最も頭のよい者か? そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」 人間も例外ではない。生き残るって、ホント大変ですよね、ご同輩。

露宿す季節にNo.588

思わず指でツーッと1本、線を引いて遊んでみた。今朝、屋根のない駐車場に置いている愛車の屋根が、今シーズン初めて、露で濡れていたからだ。

「たしかに」と実感した通り、今年の場合は9月7日から秋分前日の21日までが、「草の葉に白い露が結ぶ」を意味する二十四節気の「白露」。秋の色なら枯れ葉の茶系色が似合いそうなのに「白」の表現が用いられるのは、中国の陰陽五行では「春=青(緑)」「夏=朱(赤)」「秋=白」「冬=玄(黒)」の各色が当てられているからだ。若々しさが溢れる「青春」という言葉や、詩人・北原白秋の名などもここに由来する。

そんな「白露」の先日7日、地方紙「福島民報」は写真欄「今日の撮れたて」に、稲の葉に宿った露のクローズアップ写真を掲載していた。もちろん紙面では動画ではないから分かりようもないが、もしかするとこれがあの「猿子」なのだろうか。

諸兄はご覧になったことがおありだろうか。元天気キャスター倉嶋厚さんが著書「季節の366日話題事典」に書く。「稲の葉に小さい露が付くと、間もなく葉の下のほうから水玉が上り始めます。速度は3秒で10cmぐらい。この現象は隣同士の小さい露が合体して一つになり、それがまた次の露と一緒になるのを繰り返して起こります」 それが「猿子」現象。上へ動くのは、稲の葉はギザギザが上向きになっているからだそうな。

「露」で思い起こす句がある。「露の世は 露の世ながら さりながら」一茶 俳人・小林一茶は不遇の人だった。3歳で母と死別し、8歳で継母を迎えたが馴染めず、14歳で江戸へ奉公に出される。25歳で俳諧を始めたが、生活が楽ではなかったこともあり、52歳でやっと、24歳年下のキクと結婚。しかし、長男は28日で発育不全のため死亡。長女は1年2カ月後に天然痘で、次男は96日で、働いていたキクに背負われたまま窒息死し、三男も1年9カ月で栄養失調で亡くしている。

「露の世は…」は、長女の死を悲嘆して詠んだとされる。「この世は露のように儚(はかな)いものであることは知っていた。それにしても…」 句末の「さりながら」の五文字に、わが子を亡くした親の、それ以上は言葉にしようがない辛さ、無念さが凝縮されている。

文部科学省は11日、昨年度に自殺した小中高校生が前年より44人多い200人になったと発表した。背景に「いじめ」が確認されたのは4件だけ、全体の58%が「原因不明」という報告を、そのまま信じる気になれない。露の命を、増やしてはならぬ。

「秋バテ」の季節No.589

「暑さ寒さも彼岸まで」と誰が最初に言い出したのかは不詳らしいが、「言い得て妙」だといつも感心する。今年は19日が「秋の彼岸の入り」。日中に暑さはまだ残るが、朝や夜は、各地とも過ごしやすくなってきたのではなかろうか。

それなのに、身体がシャキっとしない。だるい。頭もスッキリしない――とおっしゃる方は、最近話題にされ始めた「秋バテ」のせいかも知れない。

民間企業数社で共同運営する「血のめぐり研究会」が今年6月、20~40代の女性を対象に行なった調査によると、夏(7~8月)に不調を感じる人が60.1%、秋(9~11月)に不調を感じる人が62.3%いた。つまり注目すべきは、夏よりも秋に、不調を感じる人が増えていることだ。デリケートな女性に限った話ではあるまい。

同研究会の渡邉賀子氏(麻布ミューズクリニック院長)が分析している。「『夏バテ』は、夏の暑さで体力や食欲が低下することで疲れやだるさが現れる、いわゆる『暑気あたり』のこと。通常は過ごしやすくなる秋口には症状は回復する。しかし近年、冷房で身体を冷やす『冷房冷え』で自律神経のバランスが乱れ、秋になって不調が出てくるようになった」「節電対策で夏に冷たい物を摂り過ぎたことによる『内臓冷え』も増えている。とくに胃腸の冷えは全身の冷えにつながる。『夏バテ』が長期化・深刻化することで、秋になっても疲れやだるさが続く『秋バテ』が登場したと考えられる」

夜間はかなり過ごしやすくなってきたのに、クーラーをまだ付けっ放していませんか? Tシャツ・短パンの薄着で寝ていませんか? 冷えたビールをグビグビ飲んではいませんか? 入浴をシャワーだけで済ませていませんか? 大事なのは、生活習慣を「夏モード」から「秋モード」へと早めに切り替えることらしい。夏バテを引きずったまま秋を過ごし、冬を迎えると、「慢性疲労」に陥る恐れがあるそうだ。

そんな「秋バテ」対策のポイントは「ぬるいお風呂に、ゆっくり入ることが一番」と専門家は口を揃える。適温は36~38℃。布団に入る2時間ほど前に、入った数分は冷たいと思うほどのぬるま湯に20分ほど浸かっていると、やがて心身がリラックスし、副交感神経の働きが高まり、血行が良くなり、安眠できて効果的だそうだ。

ただし。何でも「ぬるま湯が良い」というわけでは当然ない。日常を「ぬるま湯的生活」で過ごすのはもちろん逆効果。こちらもまた早めにご改善を。